成功体験は伝わりやすい。一方、1年という短期間に3つの異なる環境で屈辱を味わい続けた経験は比江島にしか分からない。「5年後や10年後にこの経験の意味を彼自身が把握できる」と稲垣コーチは期待を込める。
「日本人の多くの選手が知らなければいけないけど、知ろうとしないのは失敗談です。比江島だけが、何が足りなかったか、もっとこうすれば良かったという体験を次に続く選手にアドバイスできる存在です。短期間に多くの挫折をしたことで、彼だけに見えたことも絶対にあります。現役中には無理かもしれませんが、今後引退したときに後輩たちへどう伝えていくか。それを僕自身も楽しみにしています」
サマーリーグでコーチ陣から指摘された課題を、日本に戻ってからも稲垣コーチは伝え、NBAを意識させ続けている。今シーズンのBリーグでは、「落ち込んだ後に気持ちを切り替える間隔が早くなりました」。挫折を乗り越えたことでメンタル面での成長や変化が見られ、プレーにも好影響をもたらせはじめている。
「英語」「プレーのスタンダード向上」「知識」「自己表現の速さ」
「ただただ楽しかったです」という稲垣コーチは、ニューオリンズのベンチワークやチームマネジメントなど多くを知る機会になった。裏側も全て見ることができ、コーチ陣と時間を共有したことで気づかされることも多かった。
「ウィザーズ戦の前のミーティングでは、『八村塁をどう思う?』など急に意見を求められます。そのときに自分が準備していなければ、答えることもできません。そのときにディスカッションできたことで、その後も楽しく過ごせました。アメリカではコーチ同士で意見を求める機会が多いです。お互いにディスカッションし、アイディアを出し合いながら、より良いプレーを求めて高め合うことを常に行っていました」
Bリーグのミッションには、「世界に通用する選手やチームの輩出」が最初に書かれている。世界最高峰であるNBAなど、世界を目指すために必要な要素を稲垣コーチに挙げてもらった。
「『英語』が話せることが一番です。英語を理解していなければコーチの指示も分からないので、そこで差が生じてしまいます。『プレーのスタンダード』を全体的に上げる必要も感じています。ワールドカップでのアメリカ戦では技術云々ではなく、基礎レベルのスタンダードの差が露呈し、ドライブやパスの速さだけで崩されていました。また、コーチに言われたことをすぐに理解できる『知識』が重要です。知識=クイックス&柔軟性だと思っています。少ないチャンスをつかむためにも、コートに立ったらすぐに自分のプレーをアピールできる『自己表現力の速さ』も必要です」
ワシントン・ウィザーズで活躍する八村の存在によって日本へのマーケットが拡大しており、選手にとっても追い風が吹いている。
「経験だけは人から与えられるものではないので、失敗しても良いからとりあえず海外にチャンスを見つけに行って欲しいです。行くことが当たり前になれば、入ることも当たり前になります。そうすることで、少しずつ日本バスケのスタンダードを上げて行けると思います」
■バスケットボール・オンライン・コーチング・クリニック
稲垣コーチがNBAをはじめとした世界で活躍するコーチから学んだことを、育成世代に向けてYouTubeで絶賛公開中!不定期で元プロ選手の青木康平氏らとともに、ZOOMを使ったディスカッションも開催。次回は5月23日(土)21:00〜(※先着20名/コーチ対象)
宇都宮ブレックス 稲垣敦アシスタントコーチ
NBAサマーリーグのコートに立った28歳の評価
前編 https://bbspirits.com/bleague/b20052002/
後編 https://bbspirits.com/bleague/b20052103/
文・写真 泉誠一
写真提供 稲垣敦