宇都宮ブレックス 稲垣敦アシスタントコーチ
NBAサマーリーグのコートに立った28歳の評価 ─前編─ より続く
「コーチが助けたいと思われるような選手になること」
ニューオリンズ・ペリカンズのロスターに滑り込んだ比江島慎(宇都宮ブレックス)は、NBAサマーリーグ 2019に出場するチャンスを得た。同じくベンチ入りして支えた稲垣敦コーチは「我を出すのが遅かったです。終盤になってようやく出始めましたが、その時期には他の選手はすでにアピールし終わっていました」と振り返る。続けて、「サマーリーグは特殊」という難しさもあった。
「サマーリーグはトライアウトの場であるとともにチームの育成も担っているので、そのバランスがものすごく難しいです。ドラフトされて準備段階の選手もいれば、このチャンスを使ってチームに入りたい選手もおり、それぞれ立場が異なります。Bリーグの中にもチャレンジしてチームに入れる選手はいるとは思いますが、通用するかと言えばそこはまた別の話です」
アメリカをはじめとした海外リーグを目指す日本人選手に対し、『チャレンジ』という言葉がついてまわる。稲垣コーチ自身も海外でプレーした経験を踏まえ、「向こうにとっては助っ人として期待しているわけです」というのが正論だ。
「同じレベルであれば地元出身の若い選手を取るでしょうし、日本人である必要はない。例えば、Bリーグにバスケ後進国の選手が挑戦しに来て、『良く来ました』とはならないですよね。外国籍選手が移籍する場合、チームを助けてくれる存在を求めているのはNBAやGリーグでも同じです」
NBAや格上の海外リーグを目指すためにも、「今いる場所でベストな選手になること」「エージェントやコーチが助けたいと思われるような選手になること」を稲垣コーチは挙げた。バスケの実力だけではなく、人間性も大切な要素となる。
「NBAのコーチやスカウティングから『彼は話を聞く態度が良いか』と必ず聞かれます。続けて、『マネージャーや他のスタッフに対しても同じ態度で聞く耳を持っているか』と立場が変わっても同じかどうかも評価しています。NBAへの道は多くの人とつながり、いろんな人の助けを借りていかなければなりません。だからこそ、まわりにいる人を大切にすることも必要な能力です」
3つの異なる環境で挫折が続いた1年間
オーストラリアNBLのブリスベン・ブレッツでは3試合(合計1.9分)、NBAサマーリーグでも2試合(合計10.3分)しか出場機会がなく、いずれも無得点に終わった。日本代表として臨んだ昨夏のワールドカップでは1勝もできなかった。「正直、落ち込んでいました。代表では八村(塁)選手と渡邊(雄太)選手が入って来たことで役割の変化があり、自分が望んだ結果がひとつもつかめなかったタフな状況でした」と稲垣コーチも心配していた。自信を失い、メンタル面からプレーに影響が出るイップスになってもおかしくはない状況でもあった。