part1「先発ポイントガードとして迎えたルーキーシーズン」より続く
ポイントガードほどおもしろいポジションはない
「ポイントガードは1番おもしろいポジションだと思っています」と熊谷は言う。「もっとも効率のいいフォーメーションで攻め、もっとも有効なシュートを選択する。相手のファウル数を頭に入れ、ウィークポイントを考えながらタイムマネージメントをする。ゲームをコントロールするのは大変な仕事で責任も重いですが、自分のコールで他の4人を動かすという充実感があります。こんなにやりがいのあるポジションはないと思っています」
しかし、コートの上で他の4人を動かすためには4人のことを知らなければならない。さらに言えばヘッドコーチが求めるバスケット、チームの戦法、スタイルを熟知しなければならない。シーホース三河のポイントガードとして起用された熊谷が悩んだのはこうしたことを伝授してくれる先輩ポイントガードの不在だった。「特別指定で入ったときは狩俣昌也さん(滋賀レイクスターズ)と生原秀将さん(横浜ビー・コルセアーズ)という先輩ガードが2人いたんですが、生原さんは移籍して1年目でしたし、そもそも(一緒にプレーする)時間自体が短かったので学べる機会も少なかったというのが正直なところです」、2人の先輩が抜けた今シーズンはポイントガードのポジションを移籍加入した會田圭佑と長野誠史の3人で務めることになったが、いずれも24歳という若い選手であり、チームについて学んでいくのはこれからという状況だ。もちろん鈴木貴美一ヘッドコーチも現在熊谷が抱く不安は理解している。
「僕がコーチになってからの(ポイントガードの)歴史を振り返ると、まず佐藤信長(東洋大学ヘッドコーチ)という熱量のある選手がいて、次に佐古賢一(男子日本代表アシスタントコーチ)、柏木真介(新潟アルビレックスBB)、橋本竜馬(レバンガ北海道)など優れた選手がいました。継承されていったものというか、新しく入った選手は先輩から学んで三河のポイントガードとして育っていくというような流れがあったんですよね。だけど、今シーズンの熊谷君にはそういった先輩がいない。不安を感じるのは無理もないことです。ただ彼にはいい意味でのやんちゃな部分、負けん気の強さがあります。2番、3番、4番といずれも得点能力が高い強者がそろっているチームの中で揉まれて、失敗してもそれを良い経験に変えていける選手だと思っています」
では、当の熊谷は先輩ガードがいない状況をどのようにとらえているのだろう。「たしかに心細いと感じるときはありました。けど、それは仕方ないこと。じゃあどうしたらいいのかを考えたときに思いついたのが対戦チームのポイントガードから学ぼうということです。たとえば川崎(ブレイブサンダース)戦なら篠山(竜青)さんから、琉球(ゴールデンキングス)戦なら並里(成)さんからというように相手のガードを見て学ぶ。リーグにはすばらしいポイントガードがそろっていますから勉強になることもたくさんあります。技術的なこともそうですが、戦況に応じての声かけとかも。最近ではレバンガ北海道の橋本(竜馬)さんがフリースローのときみんなに声をかけているのを見てハッとしました。ああ、こういう場面ではこんなふうに声をかけてみんなを落ち着かせたり、鼓舞したりするんだなあと。気づいたことは取り入れて今後の自分に生かしたいと思っています」