しかし、目下彼の頭にあるのは「川崎が優勝するために全身全霊を尽くすこと」だけだ。それはコートの中、コートの外、どちらでも同じ。スタメンをジョーダン・ヒースに譲った試合ではベンチから大声をあげてムードを盛り上げ、ひとたびコートに出ればエナジー全開でチームを活気づける。本来のパワーフォワードの仕事に留まらず「求められることは何でもやる」というのが口癖。今シーズンの川崎が用いる勝負どころでのビッグラインナップ(ファジーカス207cm、ヒース208cm、カルファニ204cmが同時にコートに出る)では、これまであまり経験がないスモールフォワードのポジションを任されるが、「問題はありません」と、きっぱり。「ピックを使ったり、ボールをコントロールしたりするのは慣れない点もありますが、チャレンジするのは楽しい。ディフェンスで相手のシューターとマッチアップしたときはもちろん抑える自信があります」。さらに「ビッグラインナップのときにはすべてのスクリーンに対してスイッチして、ニックのオフェンスチャンスを作ることができます。これは相手にとってやっかいなこと。こうしたチームの武器を生み出すためなら僕はスモールフォワードだって、センターだって求められる仕事はなんでもやるつもりです」。
今シーズン9節を終えた時点で、川崎は13勝3敗、勝率.813でリーグトップを走るが、戦った16試合の中で見つかった課題は少なくない。敗戦となった3試合のうちの2試合はランキングで言えば下位となる富山グラウジーズ、島根スサノオマジックが相手であり、いずれも競り負けての敗戦だったのも気になるところだ。が、これに関してカルファニは「相手がどこであっても負けるときはある」と、さして気に留めるふうはない。「長いシーズンの間には疲れが残っていたり、いい判断ができなかったり、普段なら入るシュートが入らなかったりすることはあります。肝心なのはそこから何を学ぶかということでしょう。だから、同じ“負け”であるなら、僕は今のうちに負けておいた方がいいと思うんですよ。終盤に向けて力をつけ、負けたら終わりのチャンピオンシップを戦うためには、負けるなら早く負けて、敗因を見直して修正していった方がいい。敗戦をチームのステップアップにつなげればいいんです」
話を聞きながら思い出したのは佐藤ヘッドコーチの言葉だ。「彼は“勝ち方”を知っている選手。勝つためには何が必要か、何をすればいいのかということをうちに持って来てくれました」 ─── 27歳にして豊富なプロキャリアを持ち、それでいて性格は謙虚。献身的なプレーを常とするカルファニを見ながら佐藤ヘッドコーチはこう繰り返した。「彼はすばらしい選手。本当にすばらしい選手が入ってきてくれたと思っています」
川崎ブレイブサンダース #21 マティアス・カルファニ
新しいチャレンジを求めて
part1「13歳で認められたバスケットの才能」
part2「バスケットのキャリアを磨くだけではなく、日本の文化を学びたい」
part3「ここ(川崎)で求められることはなんでもやる」
文 松原貴実
写真 安井麻実