今シーズン川崎ブレイブサンダースに加入したマティアス・カルファニは204cmの高さだけではなく俊敏性、状況判断にも優れたオールラウンドプレーヤーだ。なかでも特筆されるのは『フォア ザ チーム』の精神。チームの勝利のためには自分が犠牲になることを厭わず、「大切なのは自分が主役になることよりチームが勝利することだ」と言ってはばからない。チームメイトたちが「最高のハートを持った選手」と口を揃える川崎のニューフェイスは、優勝を見据えた川崎の強力なワンピースになりそうだ。
13歳で認められたバスケットの才能
ブラジルとアルゼンチンに隣接し、南に太西洋を望むウルグアイは南アメリカで2番目に小さな国だ。地図を北へ辿ると、カルファニが生まれ育ったアルティガスがある。両親と弟の4人家族。外に出て体を動かすのが大好きな少年だった。「最初にやったスポーツはサッカーです。ウルグアイの子どものほとんどはサッカーをやるんですね。僕もその中の1人でした」。だが、時が経つにつれてカルファニ少年の興味は次第にサッカーからバスケットへと移っていく。「両親がバスケットをやっていたことも理由の1つかもしれません。家ではお父さんがよくNBAの試合を見せてくれて僕もすぐ夢中になりました。あこがれたのはお父さんが『世界で1番偉大な選手』と言っていたマイケル・ジョーダン。彼は本当に神様みたいにかっこよかった(笑)」
周りの子どもの多くがサッカーに興じるなか、バスケットゴールがある町の広場に出かけるのが日課になった。仲間たちと汗を流すのは楽しく、費やした時間と比例するように身長はぐんぐん伸びていく。13歳になったときにはすでに195cm。彼に人生の転機が訪れたのはその年のことだった。
「ある日、モンテビデオ(ウルグアイの首都)からバスケットのコーチが来てミニキャンプを開催することになったんです。それを聞いたお父さんがおまえも参加しなさいと勧めてくれたんですね」
キャンプは1週間に渡って行われ、迎えた最終日、コーチがやって来て彼にこう告げた。「君にはバスケットボール選手としての才能がある。私と一緒にモンテビデオのクラブに行ってトレーニングを積んでみないかい?」
それを聞いたとき、どんな気持ちでしたか?と尋ねると、うーんと少し考え込んだ。「嬉しかったです。とても嬉しかったのはたしか。でも、ちょっと怖い気持ちもありました」。当然だろう。体は大きくてもまだ13歳の少年なのだ。「でも、ためらう気持ちはすぐに消えて、モンテビデオに行く決心をしました。やっぱりバスケットが大好きだったから。大好きなバスケットで自分の人生を変えてみたかったからです」
町の広場でバスケットに明け暮れていた少年は、こうしてプロ選手への第一歩を踏み出した。