元々、我の強い性格ではないと自認する古川だが、一方でこれまでの移籍では自分がやらなければいけないと、どこかで自分自身を追い込んでいた。それでも年齢的に若かった栃木時代はチームの起爆剤となりえたが、実績を積んでからの琉球ではその思いが足かせにもなっていた。やらなければいけないという焦りと、結果が伴わないことへの不甲斐なさや戸惑い、外部からの指摘も数多く受けた。
しかし今回の移籍ではそうした焦りはないと古川は言う。アーリーカップで優勝したときも、これまでの感覚とは異なる心境でプレーができていたと認める。
「チームとしてこういう目的でやっているから、今のプレーはOKなのか、OKじゃないのかを判断するだけです。自分がボールを触れていないからとか、シュートを打てていないからといってフラストレーションが溜まることもないし、焦りもありません。僕がシュートを打たなくても、チームとして相手のディフェンスを崩して誰かが打てているのであれば、チームとして何の間違いでもないから。そういう落ち着きというか、今までとはちょっと違う感覚でいますね」
インタビューがおこなわれたのは練習が終わったコートサイド。コートの中ではまだ若い選手たちが個人練習をおこなっている。周囲にはケアを施している選手もいる。古川はそんな周囲を気にしながら、少し苦笑いを浮かべてこう続けた。
「すごく言い方が悪いんですけど、このチームはまだまだ全然できあがっていないので、自分がどうもこうも何もないですよ。自分の中では当たり前で、ベーシックだと思っていたことが、秋田では全然当たり前じゃないんです。もちろん自分のやってきたことがすべて正しいとは言い切れないですけど、それでも『どういうこと?』と感じることが多くて(笑)」
だからこそ、そこに古川が移籍したことの意味が出てくる。多くの経験を重ねた古川が加入してくることで、チームとして見えてこなかったものが見えてくる。たとえば相手にシュートを決められたとして、これまでであれば下を向いていたことさえ、古川の視点から見れば「相手に無理をさせて打たせたんだからOKだよ。チームの狙いとしてOKだよ。だから下を向く必要はない」となる。そうした考えを若い選手たちが理解してくれば、チームに落ち着きが生まれ、試合中に大きく崩れていくこともない。古川が今回の移籍で強く意識しているのはそういうところなのだ。
part3へ続く
文・写真 三上太