すでに外国籍選手との契約を終えたあとだったが、たまたまバックアップメンバーとしてもう一人登録できる制度が設けられた時期でもあった。つまり、バックアップ程度の年俸交渉で日本にやってきた桜木が、その後17シーズンもの間、第一線で活躍していることがすごい。
「今シーズンはここ3〜4年の中でも一番良い動きをしています。こっちがビックリするほどですし、あの年になっても成長しているのがうれしいよね」
毎年のように今シーズンで引退かな、と思われても仕方ない年齢だが、それを覆すだけの準備をして今シーズンは臨んでいた。鈴木ヘッドコーチと同じようにその活躍に驚かされ、勇気づけられているファンや選手も多いことだろう。桜木の好調さがエナジーをもたらせ、チームにシナジーを与えている。
絶対に大事な右腕となるポイントガード
シーホースには、ヘッドコーチの右腕となる優秀なポイントガードが必ずいる。「そこは絶対に大事」と念を押されるほどだ。過去を振り返れば佐藤信長、佐古賢一、柏木真介(現新潟アルビレックスBB)など、名だたる司令塔が常勝軍団を支えてきた。シーホースの要となるポジションゆえに、「叱られるのも彼らの役割」である。
昨シーズン、橋本竜馬に対して執拗に追い込んだ。ヘッドコーチもポイントガードも言葉に発さなければ選手を動かすことはできない。それまでの橋本は、「コーチに対して意見してはいけない」という思い込みが少なからずあった。コミュニケーション不足がボタンの掛け違いのように露呈することも少なくなかった。シーズン後、二人はヒザを付け合わせてそれぞれの思いを打ち明け合う。その甲斐あって「今シーズンの彼は目覚ましい成長を見せてくれています」。ボタンがうまくハマったことで、パフォーマンスも向上するから「指導って本当におもしろい」。
昨シーズン獲得した狩俣昌也のエピソードこそ、鈴木ヘッドコーチの方針を明確に示している。
「ポイントガードはチームの模範となる選手でなければいけません。狩俣君を獲得するときに一番目をつけていたのはその人間性です。技術的に狩俣君のことを褒める人は、正直言ってあまりいなかった。そんな彼のプレーが、今シーズンになって急に良くなってくれました。大学時代(国際武道大学)もトップで活躍したわけではない選手が、シーホースに来たことで活躍してくれるようになるということが何よりもうれしい。もちろん狩俣君自身が努力してくれたおかげです」
取材時、幾度となく「うれしい」という言葉を使っていた。いくつになっても選手が成長している姿をうれしく思い、それこそが今シーズンの好調さを物語ってもいる。
「ヘッドコーチは孤独」であり、23年間すべてのプレッシャーを背負い続けてきた。GMも兼任していれば、その重責はなおさらである。唯一、解放される瞬間が、「喜んでいる選手たちの顔を見ているときが、コーチングをしていて一番幸せなとき」だ。そう、過去に7回のリーグ戦を制し、頂点に立ったときだけである。
束の間の「ハッピーになれる瞬間」を求め、重たそうな鞄と重責を背負って今なお戦っているのが、鈴木ヘッドコーチ兼GMなのだ。
文 泉誠一
写真 安井麻実