── 2009年、2013年にはNBAにも挑戦しましたね。当時は「日本で1番NBAに近い選手」とも言われていました。
アメリカのエージェントに言われたのは「全てのプレーができる選手はNBAでもごく一握りだ。求められるのはそういった一流選手の脇でノーマークになって確実にシュートを決められる選手。それさえできれば君にも十分チャンスはある」ということでした。つまり、必要なのはシュートの正確さだけということです。だけど、日本ではシュートもパスもディフェンスもできなくてはいけない環境だったから、得意なシュートだけに特化するということにうまく対応できませんでした。自分はシュートもペネトレイトもできる自信があるのにアメリカではシュートだけでいいと言われ、頭をうまく切り替えることができなかったんです。今、思うのはあのころの自分の体と31歳の自分のIQがあれば違う結果になっていたかなあということ。当時の自分は考え方もメンタルも未熟でした。未熟ゆえに挫折したんだと思います。
── それでも日本ではシューターとして揺るぎない地位を築きました。特に試合を覆すブザービーターは印象的で、今も川村選手にボールが渡ったとたん、何かが起こるとファンは期待してしまいますね。
いや、それ、キツイですよね。決まればいいけど、落としたら「川村で負けた」って言われますもん(笑)。決めた印象が強いだけで、実際は結構落としてるんですよ。落としたときは何が悪かったのか、あとで必ず見直します。まあ理由は試合の流れにもよりますが、1つ言えるのは「俺が決めてやるからボールを寄こせ!」と強く思ってるときの方が打ち切れてるってことです。もちろん、みんなの協力があっての1本ですが、その気持ちが強いときは体勢とかあんまり関係なく打ち切ってますね。
── その「俺に寄こせ!」も含め、セルフィッシュだと言われることもあったのでは?
もうめちゃめちゃ言われましたね。川村は我が強くて、セルフィシュだと、それは定着したイメージなのかなあ。
── そのイメージについて自分ではどう思いますか?
我が強い?セルフィッシュ?それのどこか悪い!と思います。僕はチームを勝たせるためにプレーしているのであって自分が目立ちたくてやってるんじゃない。それに勝負所で「誰かがやってくれるから任せよう」と思ったら、それはもう僕じゃないです。こういうことを言うと誤解されるかもしれないけど、選手はもっとセルフィッシュになっていいというのが持論です。チームの勝利のために自分が決めてやるっていう強い気持ちは必要じゃないですか? ここは日本のリーグなのに日本人が得点王を取らないでどうする、それじゃ日本のリーグは発展しないだろ? と、僕は思っています。
── 川村選手のシュート力は早い時期から『規格外』と言われてきましたが、選手としてはどうでしょう?自分は『枠をはみ出した選手』ですか?
うーん、どうだろう。難しい質問ですね。うーん、枠をはみ出しているかどうかわかりませんが、少なくとも『枠にハマりたくない』と思ってやってきたのは確かです。それがなかったら大学に行ってただろうと思うし、そしたら今の自分はいなかっただろうとも思うし。枠に囚われずはみ出したことで新しい自分を見つけることができたっていう思いは強いです。枠の外だからこそ見えるものもいっぱいあって、そのせいで失敗することも沢山あったけど、それが自分の選んだバスケットの道ですから。優等生になれないのはまあ仕方ないかなあと(笑)
文 松原貴実
写真 安井麻実