172㎝とサイズはないが、その小柄な体から常に発散されるのは「やってやる!」オーラだ。敵陣を切って得意のフローターシュートを決めたかと思えば、思い切りのいいロングシュートを沈める。「自分が果敢に何度もドライブすることで、相手を引きつけられるようになるし、そこからのキックアウトも生きてきます。これからはピックの使い方ももっとうまくなりたい。コートに出たらルーキーとか、そういうのは関係ないですね。自分がルーキーなんてことは全く意識していません」。多くの場面でミスマッチになるディフェンスについても、身長のハンデを気にする様子はない。それどころか「学生時代から一貫して自分の武器はディフェンス」と、胸を張り、「サイズがなくても相手が嫌がるディフェンスはできます。ディフェンスでは絶対負けたくないです」と、言い切った。
シーズンを振り返ると、60試合中56試合にスタメンとして出場。平均出場時間は25.3分だがプレータイムをシェアする先輩ガードの綿貫瞬がケガで戦線離脱した以降は30分超コートに立つことも珍しくなかった。平均得点9、平均アシスト4.4という数字も昨シーズンのルーキーの中ではトップに位置する。さらには本人が「武器」とするディフェンスでも大きく貢献。京都が西地区2位を勝ち取り、念願のチャンピオンシップに駒を進めた要因の1つに伊藤の存在があったことは間違いないだろう。加えて、特筆されるのはクォーターファイナル(対アルバルク東京)で見せた“戦う姿勢”だ。レギュラーシーズン終盤の西宮ストークス戦で犯したファウルのペナルティ(危険行為と判定され5試合出場停止処分)によりジョシュア・スミスの欠場を余儀なくされた京都は、第1戦でテクニカルファウルとアンスポーツマンライクファウルを連発したジュリアン・マブンガが次戦出場停止処分となり、2人の外国籍選手を欠いたチームで第2戦を迎えることになった。まさに絶体絶命の窮地。しかし、一方的な展開も予想されたこの第2戦で京都は離されても、離されても食らいつく粘りのバスケットを見せる。その先頭に立ったのは他でもないルーキーの伊藤だ。32.42分出場して14得点を稼いだ第1戦に続き、第2戦は36.59分出場して18得点をマーク。敗戦が濃厚となった場面でも下を向かず、まっすぐゴールに向かう姿にルーキーらしいひたむきさと、同時にルーキーを超えた頼もしさがあった。惜しくも本命視されていたBリーグアワードの新人王は逃したが、その無念さもまたさらなる成長へのバネになるはず。「悔しさもありましたが、それより自分の成長を実感できたことがうれしいです」。掴んだ自信を手に、飛躍する伊藤の2年目のシーズンに期待したい。
文 松原貴実
写真 安井麻実