── そういった意識はパナソニック、和歌山、 日立時代にもありましたか?
日立に移籍してからそう思うようになりましたね。ただ今とは違う意味で、です。というのも、日立は僕じゃなくても得点を取れるタレントがいたので、このタレントをどう活かすかを考え始めたんです。周りが得点を取ってくれるし、ダメなら自分でいこうかという意識ですね。今はそうではなくて「周りをどれだけ成長させられるか」という思いのほうが強いですけど。
── 得点は取れるけど周りを活かす、成長を促す立場に変わることへの葛藤はありませんでしたか?
パナソニックのときにはわからなかったんですけど、自分が得点を取りに行くことで優勝できなかった事実がありますよね。自分が得点を取りまくっても、結局周りの選手を活かしきれていなかったんじゃないか、だから優勝できなかったんじゃないかと思ったんです。それは日立の1年目に周りを活かすことでリーグ戦1位になったり、天皇杯でも優勝して、「あ、こういうことなんかな」と。和歌山のときも、パナソニックのときより平均得点は下がっていたんですけど、いい成績を残すことができました。いかに周りの選手が気持ちよくプレーできるか、自分たちのプレーを発揮できるかのほうが、優勝への近道なんじゃないかなって感じましたね。
── それこそ経験の成せる業です。
そうですね。加えて、昔は得点を取っていただけにディフェンスが僕に引き付けられるんです。それで周りを活かすこともできています。昔から得点を取らないガードだと思われていたら、たぶん離されていたでしょう。
── チームの得点が伸びないときは、いつでも得点を取りに行ける準備もできている。
元々は得点を取りたいタイプですからね。実際に練習ではガンガン攻めていますし(笑)。いつでも得点は取るぞという気持ちは忘れてはいけないので、それは常に持っています。
── コート内外でさまざまな経験をしながらも、その時々のバスケットを糧にして、選手としてうまく変化している印象を受けます。
運もあるんでしょうけど、今のところ移籍したチームがすべて強くなっているという実感はあります。ぜひ大阪でもチームが強くなって、そういう経験ができたらなと思います。
── そういう意味で言えば、直近のゲーム(取材は11月9日におこなわれた)、琉球ゴールデンキングスに対してアウェーで2連勝を収めたことは、チームの進歩だと言えますね。
そうですね。より考えてプレーをやるようにはなってきた証じゃないかと思います。考えることで、疑問や質問が自分の中に生まれてきて、それを解決していくことでうまくなっていくわけです。そういう部分がこれまでは欠けていたと思います。ベテランとしての自分からも若い選手にそうした意識改革をしていけば、ヘッドコーチが求めていることだけをやるんじゃなくて、お互いがプラスになるような関係、チームを作っていけるんじゃないかって思います。
番外編「キノさん、時間ですよ~!」に続く
文・写真 三上太