チームにも自分自身にも失いかけていた自信が戻ってくるのを感じたという。「僕の場合それほど出場時間があったわけじゃないですが、それでも自分が出たらああしよう、こんなふうにやろうと常に考えるようになった。自分ならできるっていう思いが膨らんでいったような気がします」
太田がそれを身を持って証明してみせたのはアウェーでの戦いとなった2月21日のワールドカップ予選(イラン戦)だった。6連勝後の残り2試合。1戦目の強豪イランを倒せばワールドカップ出場に王手がかかる。「ナベちゃんも塁もいなかったけど、僕たちはもう4連敗したときの日本じゃないという自信がありました」。太田の出番が回ってきたのは先発の竹内譲次が2つ目のファウルを犯した1Q残り6分。いつもより早い交代となったが「譲次の1つ目のファウルがすごく早かったので、気持ちの準備はできていました」と言う。地道に自分の役割をこなすのはいつものことだが、スタートで出た2Qには相手の守りをかわしてゴール下で得点、オフェンスリバウンドをもぎ取ったかと思うと、ローポストのファジーカスに絶妙なアシストパスを2本続けて入れるなど“魅せるプレー”でチームを活気付けた。ちなみに「ファジーカスとのハイローはベンチにいるときから頭の中でシミュレーションしていたプレー」だと言う。この試合の出場時間は18分56秒。竹内譲次、ニック・ファジーカスに代わる“つなぎ役”を見事に全うし、勝利に大きく貢献したと言えるだろう。
しかし、日本を代表するインサイドプレーヤーとして世界の舞台で戦うようになった今も太田の自己評価は相変わらず低い。高評価を受けた先のイラン戦ですら「交代してすぐ細かいディフェンスのミスがありました。代表選手としてやっちゃダメなミスです」と、まず反省が口をつく。自分には突出したスキルやセンスはないと感じているのも、“巧さ”では竹内公輔や譲次には劣ると思っているのも相変わらずだ。だが、同時に太田にはもうひとつ不変な思いがある。
「バスケットが巧いというのと、チームに貢献できるというのは別だと僕は思っています。僕には僕ができることでチームの役に立ちたい。自分の役割に徹してチームを勝たせたい。だから、(Bリーグで)公輔や譲次と対戦するときも絶対負けたくない。相手が外国籍選手だろうと誰だろうとそう思ってコートに立っています」
それがバスケット選手としての矜持。太田が胸の奥に刻んだもの。チームメイトたちが言う「めちゃくちゃやさしいアツさん」が、「頼もしいアツさん」に変わる、コートの上で燃え続けるものだ。
part1【柔道少年からバスケ少年へ。太田を転身させた二つの“運命”】
part2【365日、怒られて、怒られて育った】
文 松原貴実
写真 安井麻実