浜松東三河フェニックスは2009年―2010年、2010年―2011年シーズンにリーグ2連覇を達成。太田自身も2度目の優勝時にベスト5を受賞した。常に外国籍選手と競り合うセンターポジションで存在感を示し、結果を残すのは簡単なことではない。Bリーグが開幕し、“元NBA選手”の加入が珍しくなくなった昨今ではなおのことだろう。2人の外国籍選手が同時にコートに出ることができる『オンザコート2』のルールが導入された今シーズンはプレータイム減少に悩む選手もいたと聞く。だが、こうした現状を踏まえて、太田が語ることばは明快だ。
「まず、絶対確かなことは、選手というのはコートに出て戦うことで成長するということ。実際コートに立って、いいことも悪いことも含めいろんな経験をすることで成長できるのだと思っています。その機会、つまり試合に出る時間というのは自分で勝ち取らなければいけない。スタートだろうと、ベンチからだろうと、短い繋ぎだろうと、必要とされる役割を果たすのは同じです。何かしら自分の強味を持ってそれをコートで出せるかどうか、貢献できるかどうか、それは本人次第です。外国籍選手の陰で日本人センターは育たないのではないかと言う声もありますが、僕はそうは思いません。さっきも言ったけど、何か自分の強味になるものを磨いてコートに出るチャンスがあれば、外国籍選手とのマッチアップからいろんなものが得られます。僕自身がそうでした。今でもそうです。大切なのはどんな状況であれ、自分の役割をしっかり果たせる選手になることだと思っています」
自分の後ろを追いかける若いビッグマンたちにも成長を感じている。
「大学生でいえば玄(平岩玄・東海大4年)とか巧いと思いますよ。体幹もしっかりしているし体を張ることもできる。ステップワークも巧い選手です。代表合宿でいっしょにプレーしたとき、あっ前より巧くなってるなと感じると嬉しくなります」
最後の『嬉しくなります』に太田らしさが滲む。
「だって、若い選手が努力して成長していくのは嬉しいじゃないですか。若手の成長はいいことに決まってます。特に自分と同じポジションの選手は注目するし、頑張ってほしいなあというのはありますね。だけど、対戦相手となれば話は別ですよ。相手が若手だろうと、格上だろうと、負けらんねーと思うのはあたりまえのことです」
が、太田が「負けらんねー」と挑んだ今シーズン、三遠ネオフェニックスは22勝38敗と苦戦し、中地区5位の成績に終わった。波に乗り切れなかった要因の1つとして太田が挙げたのは「良いときと悪いときの振り幅の大きさ」だ。それを引き起こしたのは「技術的なものというより、むしろ精神面だった」と言う。「ひとことで言えば自分をコントロールする力が足りなかった。それが肝心なところで出る。詰めが甘くなって勝てた試合をいくつも落としたことが悔やまれます。うちはメンバー全員がマジで仲がいいんですよ。チームの雰囲気はほんとに最高です。でもっていうか、だからっていうか、そういうチームだからこそ勝たなくちゃいけないんですよね」。チームとしてののびしろはまだ十分あると感じている。「必要なのは個々が強い気持ちを持って自分の成すべき役割を遂行することです」。珍しく強い口調で言い切ったひとことは、怒られて、怒られて、それでも前に進んできた太田自身の姿と重なった。
part3に続く
【「やさしいアツさん」が「頼もしいアツさん」に変わるとき】
文 松原貴実
写真 安井麻実