3年前、プロ選手への扉を開いたベンドラメは、今年もう1つの重い扉をこじ開けた。何度も候補選手になりながら、最後の最後に目の前で閉じられてきた『日本代表チーム』への扉だ。2月に行われたワールドカップアジア最終予選。13人のメンバーに入ったベンドラメはラストゲームとなるカタール戦でベンチ入りすると、残り4分17秒にコートに出るチャンスを得た。2分を切って鮮やかに沈めた3ポイントシュートはベンドラメにとって記念すべき1本になったと言えるだろう。ところが、当の本人は「嬉しかったことは確かですが、すでに大差がついた(82-42)試合だったので、自分が勝負に絡んだわけじゃないし、子どもみたいにはしゃぐ気持ちはなかったです」と、思いの外クールだ。自分にとって大きかったのは沈めた3ポイントシュートより「ワールドカップ出場を賭けたあの場所にいたということ。実際に行ってみないとわからないことはたくさんあります。頭の中でイメージするのと、自分が実際に経験するのとは全然違う。自分が得たものからこれからの目標を定められること、それに向かって練習していけることはすごく大きなプラス材料だと思っています」
現在の日本代表におけるベンドラメの立ち位置は、富樫勇樹(千葉ジェッツ)、篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)に次ぐ3番目のポイントガード。ロスターから漏れたイラン戦ではベンチの後ろから食い入るようにコートを見つめる姿が印象的だった。「富樫の武器は高いシュート力とスピード。あのスピードに外国人選手がついて行くのは難しいでしょう。竜青さんには冷静なゲームコントロールだったりアシストだったり周りを生かす技術がある。ハッスルプレーヤーだし、ディフェンスを見ていると相手がすごく嫌がっているのがわかります。2人に共通して言えるのはミスが少ないということで、そこが自分との1番の違いです」。ならばこの2人の間に食い込むためには何が必要だと考えるのか?「自分が勝負できるのはやっぱりアグレッシブさと得点力。特に縦に割っていくドライブは自分の武器であり、それがなくなったら代表で生き残ることはできないと思っています。武器の精度を上げていくのは、今後の自分にとって不可欠なことです」。しかし、ここでまたベンドラメを悩ませるのはアグレッシブに攻めることで“ミスが増える”というリスクだ。「そうなんです。それはサンロッカーズでも同じ。ミスを減らしつつも僕が僕であるためのプレーを失わないようにすること。あれこれ壁にぶち当たりながら今、頑張ってる最中です」
ワールドカップの組み合わせ抽選の結果、日本はトルコ、チェコ、アメリカと同じグループで戦うことが決定した。9月1日のトルコ戦から日本の挑戦が始まる。本番にはアメリカから渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)、八村塁(ゴンザガ大)が参戦するのは間違いなく、代表チームのメンバーの入れ替わりは必至だ。「その中で“13番目”だった僕が生き残ることは厳しいことはわかっています。でも、チャンスがないわけじゃない。代表にはベンドラメが必要だと思ってもらえるためにも、今はBリーグを全力で戦うことに集中するつもりです」
プロとしての扉、日本代表としての扉、開けばそこにはまた新しい扉が現れる。最後に代表に残る自信はありますか?と尋ねると、短く「あります」と答え、そのあと、「自信がないような選手は日本代表に入っちゃいけないと思っているので」と続けた。まっすぐ顔を上げ、怯むことなく、次の扉を開く準備はできている。
part1【努力で開花した天性の能力】
part2【バスケットに苦しみ、バスケットに救われた1年】
文 松原貴実
写真 安井麻実