ミスが気になりだすと「東海大には自分より力があるポイントガードがいるのだから、あそこは自分じゃなくて先輩の方がよかったんじゃないか」という思いもよぎる。秋のリーグ戦の途中にキャプテンの狩野祐介(滋賀レイクスターズ)に代わってスタメン入りを告げられたときは喜びより先に戸惑いを感じた。「狩野さんはキャプテンとしてすごい情熱を持ってチームを牽引してきた人だし、4年生最後のリーグ戦で自分がスタメンをもらっていいのだろうかって。そこまで自分に自信がなかったんだと思います」
さらに先輩ガードの和田直樹が自分の足を踏んだことでケガを負ったこともショックだった。練習中の事故とはいえ、和田は度重なるケガを乗り越えて戦列復帰したばかり。「自分のせいで和田さんがまた試合に出られなくなったと思うと申し訳なくてたまりませんでした」。追い打ちをかけるようにリーグ戦では自分の不用意なファウルが原因で手痛い1敗を喫する。「もうあっちもこっちもうまくいかなくて、本当につらかったです」。シュート練習中、突然あふれ出した涙を止められなくなって周囲を驚かせたのもそのころだ。「何かに追い詰められてるようで、メンタルがかなりやばかったです」。しかし、不思議なことに当時の試合をしきりに思い出してみても『メンタルがやばい』ベンドラメが浮かんでこない。浮かんでくるのは、いきいきとコートを走り、時に意表をつくプレーで観客を沸せる元気なルーキーの姿ばかりなのだ。「それは多分自分が意識してやっていたからだと思います。先輩たちをベンチに置いて先にコートに出させてもらうからにはそれだけのプレーをしなきゃならない。どんな場面でも全力でやろうという意識は常にありました」
振り返れば、今までにないプレッシャーを感じ、経験したことのない無力感を味わいながら、必死でバスケットと向き合った1年間だったように思う。それだけにシーズンを締めくくるインカレで優勝できた喜びは大きかった。決勝の相手は自分のミスから春のトーナメントで敗れ、リーグ戦でも後塵を拝した青山学院大。下馬評の大半の『青学有利』を覆しての快勝だった。「もう最高でしたね。最高に嬉しい優勝でした」。毎年、毎年、忘れられない試合は必ずあるものだが、大学4年間の中で1番嬉しかった試合は?と聞かれれば今も迷わず「1年のときのインカレ決勝です」と、答える。「苦しいことの連続でしたが、スタメンで出た決勝では自分なりに頑張って、少しは先輩たちに恩返しできたような気がします。それまでのいろんなことがあの優勝で一気に吹き飛びました」。バスケットによって苦しんだ1年の最後に自分を救ってくれたのもまたバスケットだった。「プレーは派手でも性格は堅実でまじめ。地道にコツコツ努力する選手です」と、陸川監督が言うベンドラメは、それ以後、選手としての階段を着実に上り、大学バスケット界を代表する存在へと大きく成長していく。
part3へ続く
【求めるのは、ミスをしない安定力とミスを恐れない積極性】
文 松原貴実
写真 安井麻実