11月17日に行われたサンロッカーズ渋谷対京都ハンナリーズ戦は、二桁リード(35-23)で折り返した京都を後半、SR渋谷が猛追する展開で、文字通り1点を争う白熱戦となった。決勝点(65-64)となったのは残り2秒にデイヴィッド・サイモン(京都)が決めたフェイダウェーシュート。ゲームハイとなる26得点を稼ぎ、10リバウンドをマークしたサイモンは間違いなくこの日のヒーローだったが、それともう1人、3Pシュートを4本沈めて場内を沸かせた晴山ケビンの存在にも光るものがあった。中でも印象的だったのは残り1分38秒に放った渾身の1本。60-61と逆転を許した直後のこの3Pには「このままSR渋谷に流れは渡さない」という晴山の気迫が表れていたように思う。
「去年までの自分は“外のシュートもある„っていう選手でした。でも、今年浜口ヘッドコーチに言われたのは『おまえは外のシュートを武器にして入っても入らなくても、それを自分の仕事として打ち続けろ』ということです」
シュートが入れば問題はない。だが、仮に外したとしても「僕がシュートを打つと周りがわかっているから、すぐにリバウンドに入ってくれるし、次の仕事に移れる。だから、今シーズンは自信を持って打てています。自分の仕事はシュートを打つことだというはっきりした自覚があって、周りもそれを認めてくれている。それが去年と大きく変わったところだと思います」
岩手県出身。中学では野球部に所属し、盛岡市立高校からバスケット部に転向。キャリアが短いこともあり、進んだ東海大では周りのレベルの高さに驚いた。「入ってすぐ、ここは自分にとって場違いのチームだと思いました」。当時のメンバーは4年生に満原優樹(SR渋谷)、3年生に狩野祐介(滋賀レイクスターズ)、2年生に田中大貴(アルバルク東京)、同期にザック・バランスキー(アルバルク東京)などいずれも全国の舞台でその名を轟かせた選手ばかり。
「自分との力差は歴然としていて、ここで本当にやっていけるのかなあ、まあ頑張って4年生ぐらいでちょっと使ってもらえるようになればいいかなあとか、そんなふうに考えていました」
しかし、陸川章監督の一言が意識を変える。「戦う以上、武器を1つ持てと言われました。自分しかできない武器を持ってそれで勝負できるようになれ」と。そこで考えたのは『190cmで確率の高い3Pシュートを打てる選手』になることだ。「ディフェンスは結構自信があったので、オフェンスでの武器を手に入れたいと。それからはとにかくシュート練習に励みました」。それが功を奏し、2年になるとプレータイムも大幅に延びてインカレ優勝に貢献。3年次にはスターティングメンバーに定着し、インカレ2連覇を達成した。
入学当初『場違い』と感じたチームで、自分を磨き、徐々に居場所を作っていった4年間。「いろんな経験を通して自信を得ることができたし、バスケット選手としての未来が拓けたような気もしました」。しかし、そんな晴山を待っていたのは予想をはるかに上回るプロの世界の厳しさだ。希望を持って入団した東芝(川崎)ブレイブサンダースでのプレータイムは極めて短く、エントリーメンバーの関係でベンチにさえ座れないこともあった。Bリーグが開幕した2年目もそれは変わらず。「苦しかったです。チーム事情はあって当然だし、その中で出られないのは自分の力不足だとわかっていてもプレーできないことはやっぱりすごく辛かったです」。コートに立ちたい、試合に出たいという思いは日ましに膨らんでいく。そして、迎えた3年目、晴山は自分を生かせる場所を求めて京都に移籍することを決心した。
「でも、移籍すれば使ってもらえるようになるわけじゃない。あたりまえのことです。それまでの僕は3Pシュートが自分の武器と言いながら、不調で入らないと打つのをためらうようなところがありました。それを見てコーチが言ってくれたのがさっきのことばです。おまえはシュートを自分の仕事だと思って、入っても入らなくても打ち続けろと」
シュートの『師』となってくれたのは先輩シューターである岡田優介だ。
「優介さんにはパスのもらい方、もらうまでの動き、両足ストップで打つこと、右左、左右でも打てるようにすること、そういうワークアウトにずっと付き合ってもらいました。優介さんは厳しくて『だからおまえのシュートは入らないんだよ』とか『だからおまえは身体が流れるんだ』とか『流れてもいいから上半身の軸はずらすな』とか、もうバンバン言われるんですけど、それがすごく勉強になるんですね。自分で言うのはなんですけど、僕の唯一の長所は素直なところだと思うんで(笑)、教えられたことは1つひとつ大事に吸収してきたつもりです」
その結果、今シーズン17試合を終えた時点で全てにスタメン出場、平均出場時間28分、3P成功率35.1%、2P成功率50%、平均得点9.4点の数字を残している。中でもホームの京都ファンが熱狂したのは10月28日のアルバルク東京との一戦だ。31分超出場した晴山は18得点、8リバウンドと躍動し、チームを勝利に牽引した。
だが、晴山は言う。「リーグ戦は長いです。試合で言えばまだ1クォーターが終わったばかりという感じ。疲れも溜まってくるこれからが本当の勝負になると思うので、体調管理をしっかりやって自分のリズムを維持することが大事になります。目標はプレーオフに進出して、そこで勝利に貢献すること。そのためにはこれからも1試合、1試合成長できるよう頑張っていきたいと思います」
今週(23日、24日)はアルバルク東京との大一番。タフな試合になることは覚悟の上だ。が、今の晴山に迷いはない。「シューターとしての仕事を全うする」ことを胸に、強豪が待つ敵地に乗り込むつもりだ。
文・松原貴実