ヘッドコーチが予想していたとおりのタフなゲーム展開へ
これがまだ1敗しかしていないチームと、まだ1勝しかしていないチームの差なのか――。
B.LEAGUE第5節、サンロッカーズ渋谷とアルバルク東京の試合を墨田区総合体育館で観た。アルバルク東京はポイントガードの小島元基をケガで欠き、さらにこの日はエースの田中大貴も昨シーズンに痛めた足の影響で出場を見合わせた。
だからといって、試合が始まる前の時点で6勝1敗、東地区2位のアルバルク東京が、1勝6敗で同地区最下位のサンロッカーズ渋谷にここまで苦戦を強いられると思ったファンは少なかったはずだ。いや、アルバルク東京のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチだけは、サンロッカーズ渋谷がホームで巻き返しを図るために「何が何でも勝ちに来るだろうから、今夜はタフなゲームになる」と予想していたという。
果たしてゲームは序盤からサンロッカーズ渋谷のペースで進んでいく。アルバルク東京が反撃の態勢に入っても、サンロッカーズ渋谷の集中力が欠けることはなかった。試合開始から35分までは、である。
残り6.6秒でも冷静さを失わなかったザック・バランスキー
潮目が変わったのは第4Q残り4分39秒、サンロッカーズ渋谷のライアン・ケリーがバスケットカウントを決めた後だ。そのフリースローを外すと、直後のディフェンスでアルバルク東京のミルコ・ビエリツァに3連続でオフェンスリバウンドを取られて――すべてビエリツァ自身が放ち、落としたシュートを、すべて彼自身に取り戻された形だ――シュートをねじ込まれてしまう。サンロッカーズ渋谷は次のオフェンスでケリーがまさかのフリースロー2本をともに落としてしまう。
それでもまだサンロッカーズ渋谷は4点リードしている。勝つチャンスは十分にあった。実際、そこから約3分間は両チームともによく守り、得点を動かせずにいた。つまりはどちらも最後の流れを掴み損ねていたわけだが、残り1分3秒でアルバルク東京のアレックス・カークがフリースローを1本決めて3点差とすると、残り6.6秒でビエリツァがシュートフェイクでケリーのファウルを誘い、3本のフリースローを得た。
このときアルバルク東京のパヴィチェヴィッチヘッドコーチは「ミルコ(・ビエリツァ)が1本目か2本目を落としたら、3本目はわざと落としてオフェンスリバウンド争いで勝負をかける。それを自分たちが取れば、もちろんシュートを狙うし、もし相手が取ればファウルをして、(相手のフリースローから)次の攻撃チャンスを得る。一方でミルコが2本目までをともに成功させていれば、3本目も決めにいって、同点にする」というものだった。セオリーである。
結論を言えば、ビエリツァは最初の2本をしっかりと沈めた。となれば、3本目も決めて、まずは同点に追いつくことを狙うわけだが、ここでビエリツァが3本目のフリースローを外してしまう。サンロッカーズ渋谷61点、アルバルク東京60点。
ビエリツァのフリースローが外れた瞬間、ここではまだサンロッカーズ渋谷に今シーズン2度目の勝機は残されていた。しかしリングに跳ねたボールを抑えたのはアルバルク東京のザック・バランスキーだった。
そこからのプレーをバランスキーはこう振り返る。
「リバウンドを獲ったのが自分だったので、残り時間は6.6秒だったし、自分が攻めるしかないと思っていました。ただ時間を考えたときに一度3ポイントラインの外に出る時間はあるなと。そこで相手の出方を見て、もし出てこなければシュート。出てくればドライブをしようと判断しました」
誰もが熱くなっておかしくない場面で、バランスキーはそうした冷静さを保っていた。
フリースロー争いからボールを追ってうまく3ポイントラインの外に出たバランスキーは、競り合っていたサンロッカーズ渋谷のファイ・サンバが飛び出してきているのを確認すると、ドライブでゴールに向かう。しかし目の前にはまだサンロッカーズ渋谷のロバート・サクレが残っていた。サクレはNBAを経験したこともある213センチのセンターで、しかもこの日はすでに3本のブロックショットを決めている。もちろんこの場面でもバランスキーのシュートをブロックしようと狙っていた。
しかしここでもバランスキーは冷静だった。サクレが伸ばした手の上を超すフローターシュートを選択し、逆転のそれを沈めたのである。
勝利の神様が見ているのは諦めない姿勢と――
試合後、アルバルク東京のパヴィチェヴィッチヘッドコーチは「勝利のカギは最後まで諦めずに粘って、コンスタントにプッシュするプレーを遂行したことです。今日の試合を振り返れば、最初の35分間はほぼサンロッカーズ渋谷のペースでした。残りの5分を諦めずに食らいついた結果が自分たちのほうに勝利が来た要因だと思う」と言えば、サンロッカーズ渋谷の伊佐勉ヘッドコーチ代行は「最後に球際でチャンピオンチームの意地を見ました。ボールに対する執着心がウチとは違っていた。そういうところは見習いたい」と逆転負けを素直に認めた。
バスケットは40分のスポーツ。どんな劣勢に立たされても、諦めずについていけばどこかで勝機が見つかることもある。もちろん見つからないまま試合が終わることも多々あるのだが、大切なことは、どこで“自分たちの試合”を終えるか。
個人としてはこの日の出来に「納得できる結果ではないですね」と言う馬場雄大も、この試合で改めてそれを学んだと振り返る。
「やはりゲームは最後の最後までわからないというか、ルカ(・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ)もミーティングで『最後まで諦めなかったら何か開けるところがある、最後の最後まで戦うことに意味がある』と言っていたので、やはりどんな状況でも、全力で戦うことの大切さは学びました」
さて、冒頭に記した「1敗のチームと、1勝のチームの差」だが、それは試合結果に触れたものではない。アルバルク東京が諦めなかったことでもない。もちろんそれは素晴らしいことなのだが、それ以上に「差」が出たのは、やはりバランスキーが最後に放った決勝のフローターシュートにある。
「0度からのフローターシュートは練習終わりにいつも練習しているものなんです。それをやって個人練習を終える感じですね。だからあのシュートが決まったときにコーチ陣から『練習の成果が出たな』って言われました」
勝利の神様は練習まで見ているらしい。
文・写真 三上太