昨シーズン1勝も挙げられなかったアルバルク東京を破り、苦手意識を払拭
アルバルク東京vs栃木ブレックス戦は4連勝同士であり、早くも東地区首位決戦となった。どちらも譲ることなき熱戦は、今シーズンリーグ初となる延長戦までもつれ込む。第4クォーター終了間際、ターンオーバーを犯したA東京#6馬場雄大選手。そのミスを帳消しにすべく、ラストプレーで思い切ってゴールに飛び込みフリースローをもらう。残り時間は2秒。決まれば勝利をたぐり寄せることができる。しかし、「ファウルをもらったことで安心してしまった」という馬場選手は2本とも落としてしまった。#15竹内譲次選手がオフェンスリバウンドを獲り、すぐさまシュートに行ったが決まらず。69-69のまま延長戦に突入した。
A東京はエースの#24田中大貴選手と#1小島元基選手が欠場。第4クォーター残り5分50秒を残して#31ジャワッド・ウィリアムズがファウルアウトし、8人での戦いを強いられる。延長戦、ディフェンスをさらに強固にするA東京を打ち破ったのが、それまで無得点の#13渡邉裕規選手だった。「シュートを決めれば勝てる」と鼓舞し合って向かった延長戦、「ようやく仕事ができた」という渡邉選手が2連続シュートを決めて73-69と栃木がリードを奪う。5分しかない延長戦は先手を取った方が有利に立つ。
焦りが見えるA東京のオフェンスが思うようにつながらない。最後はファウル覚悟でボールを奪いに行った#13菊地祥平選手のプレーが、アンスポーツマンライクファウルをコールされた。渡邉選手がフリースローを2本しっかり決め、さらに栃木ボールで再開。残り時間は12秒。続けて#0田臥勇太選手も2本のフリースローを沈め、79-74で勝負あり。昨シーズンはA東京と6度対戦し、一度も勝つことができなかった。「早めに苦手意識を払拭したかった」と安斎竜三ヘッドコーチは安堵し、栃木にとっては大きな1勝となった。
相手をファウルアウトさせた“アグレッシブなオフェンス”がキーポイント
ウィリアムズ選手が退場した場面を、安斎ヘッドコーチはキーポイントとして挙げた。「後半からゴールにアタックする気持ちが全員出ていた。それによって相手のファウルがかさんだ」ことが要因である。アグレッシブなオフェンスにより、延長戦では竹内選手もベンチへと追いやった。互いに堅守のチームであるが、最後はオフェンスのスムーズさで栃木が上回った印象がある。今シーズン、安斎ヘッドコーチはオフェンスのテコ入れをしていた。
「スペーシングとスクリーンをしっかり使うことさえできれば、どのオフェンスを使ってもある程度はオープンでシュートチャンスができる。それをプレシーズンからずっと徹底してきた」
ボールと人が連動して動く戦術はポピュラーであり、A東京も日本代表も同じスタイルである。現時点において、「オフェンスの流れが良く、息が合ったプレーをしている今の栃木は完成度が高い」とA東京のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチも認めていた。
この対戦前まで、昨シーズンの平均74.9点を大きく上回る平均87.5点(現在平均85.8点)を挙げる栃木の得点力に注目していた。もちろんまだ4試合しか終わっておらず、対戦したのも2チームなので偏りもある。それでもスムーズなオフェンスができている要因について、司令塔の田臥選手は以下の点を意識しながらコントロールしていた。
「トランジションなのかセットなのか、今どこが狙い目なのかを常に見極めるようにしています。これまでもそうですが、同じようなパスや動きで終わってしまうとディフェンスもラクになってしまいます。いかにボールと人が動いて、中と外のバランス良く攻められるか。その中でトランジションを出して強弱をつけることを常に意識しています。みんな共通理解を持ってオフェンスができるようになってきましたし、それが生まれるのもディフェンスでがんばっているからです。ディフェンスとオフェンスのバランスを良くして、これからも積み上げていきたいです」
得点向上の要因は円滑なチームオフェンス
田臥選手自身、前節の富山グラウジーズ戦では15点を挙げた。ゴールに向かっていく意識の変化もあるかと聞けば、それは違っていた。
「チームの連携によってズレができるので、必ず空くスペースがあります。そのスペースを使ってジャンプシュートを打つこともそうだし、オンボールスクリーンを使って崩して行くときもそうですが、それは僕だけではなくみんながどういう展開を作るかどうか。シュートなのか、パスなのかを個人的には考えていますが、みんなもバランスを考えながらプレーしていることでオフェンスがうまく回っているんだと思います」
この試合も35点を挙げ、現在得点ランキング1位に立った#22ライアン・ロシター選手(平均28.8点)も、「自分から得点に絡むためにアグレッシブに行く気持ちもありますが、チームメイトがしっかりスクリーンをかけてくれたり、良い形でボールを持たせてくれていることが得点につながっています」とチームとしての連携がうまくいっている。
主力だけではなく、昨シーズンと比較しベンチメンバーが頼もしくなった。安斎ヘッドコーチは「本当によい働きをしてくれているし、助けられている」と労っている。「チームが勝つために何をしなければいけないかということを、全員が練習中から考えながらプレーできています。誰が出ても、どんな状況でも、チームが目指すべきバスケットを遂行できるようにしたいです」と田臥選手も話しており、チーム全員でディフェンディングチャンピオンを破った勢いに乗って次戦へ向かう。
唯一、負けなし5連勝を挙げた栃木はホームに戻り、すぐさま週末にやってくるレバンガ北海道を迎える。敗れはしたが、エースを欠きながらも延長までもつれこませたA東京は誰も下を向いてはいない。アジアチャンピオンズカップから続く厳しい10月を乗り越えなければならず、タフなゲームが続くことも理解している。次戦も、ホームで川崎ブレイブサンダースとの厳しい連戦が待っている。
文・写真 泉 誠一