チャンピオンシップ セミファイナルのシーホース三河vsアルバルク東京戦は、いずれも延長戦にもつれ込む大接戦となった。しかし、内容は真逆の展開でもあった。初戦はリードしていた三河に対し、土壇場で追いついたA東京が延長戦の末、逆転勝利し先勝。2戦目はA東京ペースだったが、第4クォーターに三河が猛追し、最後は比江島慎選手が3Pシュートを決め、ウイングアリーナ刈谷を総立ちにさせた。64-64と同点に追いつき、2戦連続オーバータイムに突入。互いに譲らぬ中、ふたたびラストシュートを託された比江島選手。これを決めれば逆転勝利となる3Pシュートは無情にも外れ、73-71でA東京が激戦を制し、ファイナル進出を決めた。
勝利した後、「アウェーでスウィープ(2連勝)する強い気持ちが結果につながった」とルーキーの馬場雄大選手は喜びの声を残す。チャンピオンシップにおいて、初めてアウェーチームが勝ち上がる結果となった。
ディフェンスのミスが生じて与えたラストシュートも運に助けられる
延長戦、比江島選手のラストシュートは驚くほどノーマークだった。「明らかにディフェンスのミスだった」というルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチは、同点に追いつかれた第4クォーター最後の3Pシュートとともに、その2つの場面をこう振り返っている。
「比江島選手を混乱させたくて、わざとマークを空けた…これは冗談だが、第4クォーターのラストシュートを決められたときは、スイッチしたことでオープンにさせてしまった。逆に最後のプレーは、スイッチせずにがら空きのワイドオープンを作ってしまい、きっと比江島選手も意表を突かれるほどフリーになってしまったのではないかと思う。両方ともディフェンスのミスによって比江島選手に打たせてしまったが、最後は運に助けられた」
がけっぷちの三河は、金丸晃輔選手とアイザック・バッツ選手を温存し、松井啓十郎選手とコートニー・シムズ選手を先発で起用。この試合に勝つことが絶対条件だが、すぐさま行われる第3戦を見据えた戦いをしなければならない。第2クォーターと第3クォーターには比江島選手を休ませる時間帯を作り、それが第4クォーターの爆発につながった。しかし、「(橋本)竜馬くんに負担がかかりすぎてしまった。彼が別格に良かった分、長く出さざるを得なかった。他のポジションはシェアできたが、ポイントガードに代わりがおらず、体力の消耗がミスにつながってしまった」と鈴木貴美一ヘッドコーチが悔やむ結果になってしまった。
逆にA東京のポイントガードを務める安藤誓哉選手と小島元基選手は、この大一番で大きな仕事をやってのけた。初戦に土壇場での同点3Pシュートを決めた安藤選手、そして2戦目は「疲労困憊だった」と言うエースの田中大貴選手がベンチに下がった延長戦に小島選手が躍動する。自ら得点を挙げ、さらに逆転を呼び込むアレックス・カーク選手へのアシストは、値千金の活躍だった。
ファイナルに連れてきた昨シーズンのチャンピオンシップを経験していない若きポイントガードコンビ
これまでのレギュラーシーズンを見て来て、この二人の若いポイントガードがA東京の不安要素だと筆者は考え、チャンピオンシップは厳しい試合を強いられると予想していた。しかし、京都ハンナリーズ戦もこの三河戦もビハインドを背負い、リードしたあとに追い上げられる展開でも、しっかりとコントロールし、気持ちで負けることなくアタックする姿に自分の考えが間違っていたことをほかならぬ彼ら自身に突きつけられた。
パヴィチェヴィッチヘッドコーチは、「安藤は降格した秋田(ノーザンハピネッツ)から、小島も京都(ハンナリーズ)と昨シーズンはチャンピオンシップを経験していないチームからやってきた。その2人が今こうしてファイナルに連れてきたわけであり、それは大きな成長をした証でもある」と彼らを称えた。しかし、指揮官は満足しているわけではない。「まだまだ伸びしろがあり、まだまだ成長できる。まだまだハードワークさせ、もっともっと良い選手になってくれると期待している」とファイナルまでの短い期間でも、さらなる成長を求めていた。2戦目の延長戦は小島選手に託し、ベンチから見ていた田中選手。「今日初めて、小島が良かったと思うし、初めて小島に感謝したい」と言う言葉からも、彼らの成長が見て取れた証拠である。
「思い返せば、シーズンがはじまった当初に比べれば、ルカのバスケを理解していると思うし、自信もついてきていると思う。あとはアルバルクを優勝に導くのが最後の仕事になる。来週に向けて何かを変えるわけではなく、今までやってきたことをやるだけ」と安藤選手自身は冷静に、次の試合の準備を始めていた。
あと一歩、ファイナルに届かなかった比江島は「悔しい」という言葉を絞り出す。それとともに「全部を出し切った」試合でもあった。勝負である以上は、どちらかが敗者になってしまう。2日連続の延長戦はさぞかしきつい状況だったことだろう。もし第3戦までもつれ込んだら、試合になったのだろうかとさえ思ってしまう。見ているだけのこちらもドッと疲れる試合だったとともに、お互いのプライドをぶつけ合った今シーズン最高と言えるほど満足度の高い試合でもあった。
勝利したA東京には、もう一試合だけ残っている。今週土曜(5月27日)に横浜アリーナでファイナルが行われ、2シーズン目のチャンピオンが決まる。対戦相手は千葉ジェッツに決まった。片や天皇杯を、A東京はアーリーカップをそれぞれ制しており、どちらが勝っても2冠をかけた戦いになる。ファイナルへ向け、田中選手は「1年間良いときもあれば、悪いときもあったが、全員でそれを乗り越えてきたので、最後にみんなで笑いたい。結果を気にしすぎず、ファイナルへ向かうまでの過程が大切。良い準備ができれば、自ずと結果がついてくると思う」とこれまでと同じルーティーンで臨むだけだ。
文・写真 泉 誠一