レギュラーシーズンはまだ2試合が残っているが、激戦区である東地区同士の対戦は5月3日の水曜ナイトゲームで終わった。東地区だけの対戦成績による順位は以下の通りである。
1位 アルバルク東京(20勝10敗)
2位 千葉ジェッツ(20勝10敗)
3位 川崎ブレイブサンダース(17勝13敗)
4位 栃木ブレックス(13勝17敗)
5位 サンロッカーズ渋谷(11勝19敗)
6位 レバンガ北海道(9勝21敗)
昨シーズンの中地区チャンピオンであり、最多勝率を誇った川崎でさえ3位だったことを踏まえても、東地区のレベルの高さがうかがえる。東地区同士の最終節は、図ったようにSR渋谷vs北海道による最下位争いが行われた。しかしその順位とは裏腹に、見応えある激しい試合を見せてくれた。結果は88-83でホームのSR渋谷が逃げ切り、辛くも勝利をつかみ連敗から脱出できた。
『結果がすべてであり、練習でマジメに取り組んでいても誰も評価はしてくれない』広瀬健太選手
ウォームアップ時、どんどんダンクを決めていた広瀬健太選手が元気だ。「暖かくなってきたからじゃないですかね」と笑いながらその理由を明かす。昨年12月に左第5指基節骨を骨折し、丸2ヶ月間戦線離脱したことにより、なかなかコンディションが上がってこないシーズンでもあった。春の到来とともに「だいぶ遅れてしまいましたが」ようやく本来の姿が戻って来た。
広瀬選手だけに限らず、SR渋谷はケガ人に泣いたシーズンだった。開幕前に期待のブランデン・ドーソン選手が離脱し、広瀬選手がケガをした直後は8人しか動ける選手がいない試合もあった。その直前までは10連勝を飾っており、「前半は周りが思っているよりも良い結果を残せていたと思います」と広瀬選手も振り返る。東地区でも上位グループ争いにいたが、ケガ人が増えるとともにその歯車が狂ってしまったことが悔やまれる。
「強豪との対戦が増えてきたときに勝ち切れなかったり、負け方がひどかったりした時期が続いてしまいました。負けたあと、次の試合にその気持ちを持ち越さないようにカムバックしなければならないのに、チーム全体として暗くなるというか、マジメに受け止めすぎてしまっていました。もっと明るく、次に切り替えようと声を掛け合える雰囲気になれば良いのですが、なかなかそうはならなかったところが苦しかったです」
中地区から強豪ひしめく東地区に変わり、「昨シーズンよりも個人的には苦しかったです。自分たちで迷走してしまい、何がしたいのかが分からなくなってしまった時期がありました。今日も勝ちましたが、チーム全体としてスッキリした勝ち方かと言えばそうでもない。なかなかチームとして良い方向に向かないもどかしさがあります」と広瀬選手の気持ちは晴れない。
「勝負事なので勝たなければいけないです。練習をマジメに取り組んで、良い準備をしてきても、試合でそれを出して勝たなければ評価されない世界です。勝ち負けにはもっとこだわっていかなければなりません」
昨年の新人王であるベンドラメ礼生選手に中地区と東地区の違いについて聞けば、「一つひとつのレベルの質が抜け目ない。より質の高いディフェンスやチームとしてのプレーがあるなとすごく感じました」。その中において平均11.3点を挙げ、目標としていた2桁以上をクリアでき、個人としては自信になっている。しかし、チームとして失速してしまった現状に対し、「暗くならないようにみんなが意識していたのかもしれないですが、ふとしたときにすごく静かだなという時間帯はありました。モチベーションを保つのがすごく大変だったなと思います」と広瀬選手同様、重たい雰囲気を感じたまま戦っていた。
残り2試合はラッキーなことにホームゲームで終えることができる。自分たちだけが戦っているわけではないことを広瀬選手は強調していた。
「良い形で終わって今シーズンを締めたいです。ボランティアスタッフや運営スタッフ、ファンの方々も含めて全員で戦っているし、僕ら選手はそういう場で試合をさせてもらっていることを忘れてはなりません。どんな状況でも勝ちに向かって行くことが礼儀であり、それはやり続けなければならないです」
『東地区のタフなチームとの戦いから得られる経験は間違いなく成長につながっている』水野宏太ヘッドコーチ
現在7連敗中の北海道だが、前節の千葉戦に84-97と13点差をつけられた試合以外はいずれも5点差以内の僅差で惜しくも勝利を逃している。水野宏太ヘッドコーチは「悪い流れを断ち切れていない。点数は獲れているが、ディフェンスの部分で点数を獲られすぎてしまっている」と悔しさを露わにしていた。
ファンやスポンサーのことを思えば、勝たなければいけないのが当事者たちである。だが俯瞰して見れば、今シーズンの北海道は結果につながらない試合も多かったが、来シーズン以降に期待できる成長も見られたはずだ。これまでの北海道は、外国籍選手を3人揃えることさえできないほど運営が厳しい状況を強いられてきた。しかし、開幕時から3人体制で迎えた今シーズンは、「東地区の中で自分たちがどれだけできるのかをチャレンジし、台風の目になろう」と意識が変わったことも大きな進歩である。
シーズン途中で外国籍選手のトラブルが足かせとなった中でも、終盤までワイルドカード争いをした北海道の活躍こそが、東地区は強豪揃いだったことを裏付けている。「本来望んでいたチャンピオンシップに行けない状況になってしまったことが非常に悔しいし、結果を出せなかった自分自身も反省しなければならない」と自責の念に駈られる水野ヘッドコーチだが、その手腕は多くの人たちが認めている。
昨シーズン、現在の東地区のチームから2勝しか得られなかったが、今シーズンは9勝と大幅に勝ち星を上積みできたことも成長の証である。25歳の松島良豪選手や牧全選手、ルーキーの川邉亮平選手と関野剛平選手が急成長を遂げ、戦力となって台頭してきたことが大きな要因である。戦力が大きく変わることなくタイムシェアでき、負担が軽減したベテラン陣のパフォーマンスも上向いた。「東地区のタフなチームとの戦いから得られる経験は間違いなく選手各々にとっても、チームにとっても成長につながっている」と水野ヘッドコーチも手応えを感じている。
多くの負債を抱えていたこれまでの北海道にとって、これまではシーズンを乗り越えることで精一杯だった。だが、「累積赤字を解消し、クラブとして前に進んで行くこと」を目標に掲げ、それに近づいている今は違う。月曜日のゲームが多いにも関わらず、平均3611人を集客し、運営面での躍進も大きな力となり、勝てるチームになるための素地はできた。チャンピオンシップに出場し、優勝しなければファンを満足することはできない。しかし、今後も長きに渡ってクラブを愛する方々に向けて、将来の可能性を示すことは少なからずできたはずだ。
ラスト2試合はホームゲームが待っており、「明日への活力を観に来ていただいているファンの皆さんに届ける」モットーを貫く姿勢はこれまでと変わらない。
「今シーズンは本当に多くの方々が会場へ応援に来ていただき、一緒に戦ってもらえており、素晴らしい環境をファンの皆さんに作っていただいている。その中で勝ち切れない試合がこの終盤に続いていることは申し訳なく思っている。皆さんの笑顔が見たいので、しっかり最後は勝ちたい」(水野ヘッドコーチ)
文・写真 泉 誠一