田中大貴選手を怪我で欠いているとはいえ、FIBAワールドカップ アジア地区1次予選の日本代表候補選手予備メンバーに4人が名を連ねるアルバルク東京。そのタレント軍団を相手に立ち上がりこそ先行されたが、すぐさま逆転すると最後までそのリードを保ったまま81-76でレバンガ北海道が勝利を挙げた。
たった1日の練習時間でも妥協することなく徹底させた本来のスタイル
北海道は前節、サンロッカーズ渋谷にホームで敗れ、3連敗中だった。このA東京戦に向け、平日(月・火)ゲームだったために移動を含めると実質1日しか練習時間は取れない。それでも、「基本に立ち返るということも踏まえてオフェンス面のテコ入れをしてきました」と水野宏太ヘッドコーチは準備をしてきた。SR渋谷戦での重たかったオフェンスを解消すべく「ボールと人がしっかりと連動して流動性を持つバスケットが自分たちの良さを取り戻すこと」を最優先させ、1日しかないからこそ的を絞って徹底させたことが功を奏し、勝利に結びつけた。
強豪ひしめく東地区ゆえに、首位のA東京から1勝を得たのは大きい。対戦相手の前身であるトヨタ自動車に在籍していた時から積み上げてきた連続500試合を達成した桜井良太選手は、次々とスティールを奪って速攻につなげていった。折茂武彦選手はA東京のルーキー馬場雄大選手をうまくいなして抜き去るなど8得点で勝利に貢献。オンザコート1の時間帯には、野口大介選手が3Pシュート2本を含む12点を挙げた。
東地区は身長に恵まれた日本人選手や帰化選手を擁しており、野口選手の踏ん張りが北海道にとってはひとつの生命線である。「まともにやっても負ける」と自負する野口選手は、「経験値や相手の裏をかく」ベテランらしいプレーで隙を突いていった。ディフェンスでは、「(竹内譲次選手が)ポストアップしてくるのは分かっていたので、何回かファウルを取られてしまいましたが、周りの仲間が寄ってきて簡単にやられないように助けてくれました。チーム全員で守ることは僕らの強みでもあります」というチームディフェンスでタレント軍団の制圧に成功した。
ベテラン勢とともに関野剛平選手や川邉亮平選手がハッスルプレーで流れを呼び込み、若手選手の活躍も光っていた。松島良豪選手も通算500得点を挙げ、桜井選手とともに自らの記録に勝利で花を添えた。
2度のオリンピック出場経験を持つ名将からのアドバイス
今シーズンからアドバイザリーコーチとしてベンチ入りしたのは、元女子日本代表ヘッドコーチの内海知秀氏である。内海コーチは2001年から11年間にわたってJX-ENEOSサンフラワーズを指揮し、8度のリーグ制覇を成し遂げ、女子日本代表では2004年アテネ大会と2016年リオ大会で2度のオリンピックへ導いた経験豊富な名将である。35歳とまだ若い水野ヘッドコーチも男子日本代表アシスタントコーチなどを歴任してきた。だが、もっとチームを強くするために、まるで辞書のように内海コーチの経験を引き出し、勝利へ向けた努力を惜しまない。
「内海コーチがされてきた様々な経験は、どのコーチでも持っているものではありません。バスケットの内容だけではなく、様々な局面での選手の心境やそこから導いていく中で、内海コーチの経験してきたことをもとにアドバイスしていただいています。また、こちらのざっくばらんな意見を聞き入れて、それにしっかりと答えていただける良い関係ができています。内海コーチの経験を疑似体験するように自分の中に取り込めることは間違いなくこのチーム全体にとってプラスになっています」(水野ヘッドコーチ)
今春、内海コーチは札幌大学の客員教授として北海道に渡った。「仕事に支障がない限りは練習にも行ってますし、アウェー戦も同様に可能な限りは帯同するようにしたいと思っています」と意欲的である。
役割としては、「僕の方からあれしようとかを言うのではなく、こういうプレーに対してどうすれば良いか、ゲームの中で誰を出すべきかなどを求められたときにアドバイスの言葉をかけながらみんなで話し合って、その中で良い選択をヘッドコーチができるようにアドバイスをしています」。一方で、「大事なところで自分から言った方が良いときは、外国籍選手に対しても通訳を通して言うようにはしています」と勝負師の顔も時折のぞかせていた。
16年ぶりの男子バスケット界復帰も「女子のときも男子と同じように教えていた」
元々は男子日本代表で活躍された名シューターであり、その後は札幌大学の男子チームを指揮。実に、16年ぶりに男子バスケット界へ復帰したわけである。
「最初は男子と女子の運動能力の差にちょっと違和感はありました。でも、考えて見れば女子のときも男子と同じように教えていたので、今はもう違和感はないですね」
昨年、リオオリンピックで世界ベスト8になった女子日本代表のスタイルをベースにアドバイスをすることもあるのだろうか?
「北海道も、女子日本代表と同じようにトランジションバスケットがうまく出せれば、強くなるチームです。そこを目指していかなければいけないことはスタッフ同士の共通理解として強化しています。また、ハーフコートでもより良いオフェンスができるようにし、そのメリハリをしっかりつけていける形が取れれば、今日のようなゲームができると思っています」
日本体育大学の後輩である野口選手に対しては、「一生懸命体を張ってくれていますし、外角シュートの確率も今シーズンは良いですしね」と評価している。しかし、当の本人は「意外と内海さんが気を遣っているのか分からないですが、そこまでアドバイスはもらえていないです。もらえるまでのレベルに僕が到達しないといけないですね」と笑っていた。それでも内海コーチの存在は大きい。
「先輩がいることで気持ちが締まる部分もありますし、良い風が吹いています」
9勝目を挙げた北海道だが、東地区では現在5位と下から数えた方が早い。Bリーグ全体で見れば、18クラブ中8番目の勝率を挙げ、けっして弱いチームではない。「この試合は良かったですが、次も勝ち切れるかどうかが僕らの課題でもあります。琉球(ゴールデンキングス)戦も初戦は勝ちましたが、2試合目は差を付けられて負けているので、その教訓を生かしてまた1からやり直したいです」と野口選手は気を引き締め、連勝に挑む。
本日14:05より立川立飛アリーナで第2戦が行われる。この試合には元NBA選手のディケンベ・ムトンボ選手が来場し、もしかするとバスケットをするかもしれないそうだ。その姿を見たければ、13時頃と早めの会場入りをオススメしていた。
文・写真 泉 誠一