9月11日に行われたTIPOFFカンファレンスにて、「今年のシーホースはスタイルを変えて、速い展開のバスケットを目指している」という比江島慎選手のコメントは、集まったメディアをざわつかせた。旧トップリーグであるJBL日本リーグで1部昇格した1995年から、長年にわたってシーホース三河の指揮を執るのは鈴木貴美一ヘッドコーチ。ゲームメークに長けたポイントガードを擁し、帰化選手である桜木ジェイアール選手ら盤石なるインサイド陣を軸としながら変わらぬ堅実なハーフコートバスケットで、これまで6度のリーグ戦制覇を成し遂げてきた。
開幕戦に見られた“速い展開”はほんの10分だけ
昨シーズンのフィールドゴール成功率48%はリーグ2番目の好成績だったが、攻撃回数は平均70.5回と下から2番目であり、“速い展開”とは大きくかけ離れていた。その三河がどう“速い展開”になるのか?アーリーカップには出場せず、プレシーズンゲームは全て非公開だったため、ようやくその新スタイルのベールを脱いだ栃木ブレックスとの開幕戦。いきなり“速い展開”を披露する。
ディフェンスリバウンドを獲るや否や、起点となる橋本竜馬選手や比江島選手にボールを預けると、2〜3秒ほどで自陣まであっという間に攻め込んでいく。そこから追い越すフォワード陣にボールを預けたり、比江島選手はスピードに乗ったままペイントエリア内を進撃したり、橋本選手は思いきり良く3Pシュートを打っていた。1クォーターで21-13と8点リードを奪う。しかし、その新スタイルが見られたのは最初の10分だけであった。
「今シーズン、プラスアルファするためにトランジションの展開を出すための練習をしてきた。1クォーターは非常によくできていた。それができた理由としては、ディンフェンスリバウンドをしっかりと獲ってそこからファストブレークにつなぐことができたからだ」
新スタイルについて明かす鈴木ヘッドコーチも、最初の10分は及第点をあげている。しかし、2クォーター以降は逆に栃木に走られ、そしてオフェンスリバウンドを許すと、一気に“速い展開”は形を潜めてしまった。
「2〜3クォーターはとにかくリバウンドが獲れず、ディフェンスも甘くなり、自ずとしてファストブレークも出せなくなってしまった」(鈴木ヘッドコーチ)
栃木は48本のリバウンドを奪い、そのうちオフェンスリバウンドは半分近い22本。それにより後手に回った三河は目指すべき“速い展開”に持ち込めず、78-64で敗れてしまった。
“速い展開”を習得する近道がコミュニケーションだが、遠い存在でもある!?
翌2戦目は一転して、85-70で三河が快勝。昨シーズン最終戦に負ったブレックスアリーナの呪縛からようやく解き放たれた。何度か速攻を出す場面もあったが、攻撃回数は昨シーズン平均より低い70.3回止まり。まだまだ浸透はしていない。
新たに取り組むスタイルについて金丸晃輔選手は、「まだ一人ひとりがどうしたら良いのかという迷いが見えていて、それで噛み合っていない。例えば、スクリーンを使って動いてもガードが見えていなかったり、逆に動こうとしても良いところにスクリーンがいなかったり。練習もそうですが、試合を重ねて経験していかないといけない。まだまだです」と話すことが現状である。
昨シーズン、攻撃回数が増えた試合のスタッツを見返すと、平均して30本以上のディフェンスリバウンドを獲っていた。2戦目は勝利したが、三河のディフェンスリバウンドは28本と開幕戦の27本とさほど増えていない。逆に、15本のオフェンスリバウンドを栃木に奪われている。走ることに意識がいってしまい、ディフェンスリバウンドが疎かになっているのかもしれない。
改善するためには、「しっかりとコミュニケーションを取って、このタイミングでパスが欲しいとか、スクリーンが欲しいとかをもっと言っていかないと悪い流れになってしまう。もう少し話していかないとダメですね」と金丸選手は挙げている。しかし、そこが一番の不安材料だ……。
弊誌Vol.10では饒舌かつ生き生きと釣り話を語ってくれた。だが、コート上で話している姿はなかなか見られない。それは金丸選手だけではなく、比江島選手も同じタイプ。両エースが率先してコミュニケーションを取るタイプではないのが、新しい取り組みに時間を要してしまっていると考えることもできる。昨シーズン、彼らがコート上でどんな話しをするのかを興味深く見ていた時があった。金丸選手はレフェリーに抗議しに行くときだけ、比江島選手に至ってはうなずくだけ…。橋本選手という良きリーダーがいることが、せめてもの救いだ。
“速い展開”がうまくいかなくても、これまで培った盤石なハーフコートバスケットがあり、三河の大きなアドバンテージであるのは変わりない。それに加えて“速い展開”を手にし、自在な緩急で攻め込まれたら、とてつもなく厄介な存在になる。
兎にも角にも、しゃべっていこう!
文・泉 誠一/写真・吉田宗彦