チャンピオンリング贈呈式が行われたブレックスアリーナ宇都宮。昨シーズンのチャンピオンメンバーを温かい拍手で迎える黄色いファンは、最後にケガで開幕戦に間に合わなかったジェフ・ギブス選手の名前が呼ばれると総立ちになって迎えていた。
「コンバンワ!このチームでこのチャンピオンリングを獲得できたのはとてもうれしく思う。今シーズンももう一度、みなさんとともに優勝したい。そのために栃木に戻ってきた。この優勝はファンの皆さんのためであり、皆さんとともに勝ち獲ったもの。サンキュー!」
まだ復帰には時間はかかるが、ギブス選手のこのメッセージで一気にボルテージが高まっていった。
B.LEAGUE 2ND SEASON『開幕』である。
立ち上がりこそシーホース三河に8点のリードを奪われたが、それも「想定内」と新指揮官の長谷川健志ヘッドコーチは慌てない。ともにオンザコート2となった第2クォーターは、スピードを上げた栃木が一気にペースをつかんで逆転に成功。その後も攻守に渡ってスピードを緩めることなく、最大22点のリードを奪う。最強のファンの後押しを受けながら三河を78-64で破り、ホーム開幕戦を完勝で飾った。
チームが変わっても揺らぐことなき、コーチングフィロソフィー
チャンピオンリングを手にした田臥勇太選手、遠藤祐亮選手、竹内公輔選手、ライアン・ロシター選手の不動の4人に加え、B2広島ドラゴンフライズから移籍してきた鵤誠司選手が先発を任された。「プレッシャーはそんなになかったです。逆にモチベーションは高く、やってやりたい、もっと成長したいという思いでブレックスに来ました」という言葉通り、鵤選手は気持ちの強さを前面に出して役割を果たす。ディフェンスでは三河のエースに対し、身体を張って止めていた。
190cm前後のフォワード選手がこぞって抜けた栃木は、3ガードのようなラインナップとなる。その意図について長谷川ヘッドコーチは、「僕はあまり身長にこだわってポジションを決めつけるのは好きではない。3ガードだからどうこうという意識はなく、良いところもたくさんあります」と答え、これまでと変わらぬコーチングフィロソフィーを貫いていた。
「身長の低さは言ってもしょうがないですし、逆にポジティブに捉えています。展開も速くなるし、ボールの動きとオフェンス時のプレーヤーの動きの連動性も、小さくした方がスムーズにいく状況が作れます」
しっかりと連動しながら、第2クォーターだけで7点を挙げたルーキーの生原秀将選手がその期待に応える。栃木のガード陣はゲームコントロールも得点能力も備えており、小さくても様々なバリエーションで対抗できる強みが見られた。
鵤選手とのコンビについて生原選手は、「一緒に出ているときはすごくやりやすいです。誠司さんはドライブで切っていくプレーが多いですが、自分は外角シュートの方が得意なので、そこをバランス良く動けるように二人でよくコミュニケーションは取っています」と同世代の感性で切り拓いている。一方、「田臥さんと同じことをしても意味はない。ガードなのでコントロールなどを考えてしまいがちですが、今年は得点をしっかりと狙いにいきたいという目標を持っています」。日本一安心できるゲームメーカーの田臥選手と一緒にコートに立ったときはギアを得点モードに変え、開幕戦から目標を達成する活躍を見せてくれた。
「途中から出てきた生原選手があの時間帯であのような得点を獲るなんて、我々は予想もしていなかった」と三河の鈴木ヘッドコーチは驚いていた。そのことを生原選手に伝えると、「自分の場合はまだ相手に情報がない中でスタッツを残せただけ。これからいろんなチームに対策される中で、自分がどこまでできるのか楽しみです」と現状を把握し、落ち着いて自己評価をしていた。同時に、スカウティングされてもそれを上回る活躍をすれば良いだけであることも分かっている。
「コンボガードとして、僕もしっかりと得点を獲っていきたいです」と鵤選手も負けていない。開幕戦は14点を挙げた生原選手に対し、鵤選手は2点であったが「(生原選手は)すごくポテンシャルある選手ですし、やってくれるとは思っていました。良い刺激にはなりますよね」と言うように良いライバルとして鎬を削り合い、若い2人がチーム力を高めていくことに期待したい。
勝利を呼び込んだ“ブレックスらしさ”=BREX MENTALITY
長谷川ヘッドコーチは、「チームの完成度や戦術よりも、まずはブレックスらしくリバウンドとルーズボールを粘り強く獲って、チーム全員で戦おう。そのブレックスらしさをコートで表現し、きちんとファンに伝えられるようにしよう」と試合前のミーティングで選手たちに伝え、コートに送り出した。
高さで勝る三河に対し、48本:34本とリバウンドで上回ったことが勝因である。「相手のオフェンスを少しずつ思うようにいかせずにタフショットを打たせたことで、こっちがリバウンドを獲りやすい状態になった」と長谷川ヘッドコーチは言うように、今シーズンの栃木もハードディフェンスは変わらない。トップリーグを相手に挑んだ青山学院大学時代も、世界と戦ってきた日本代表でも、いつも身長では負けていた。その差を言い訳にすることなく、逆にしっかりコンタクトさせてリバウンドへの意識を高めさせたのは、長谷川ヘッドコーチのこれまでの経験が生かされている。
敗れた鈴木貴美一ヘッドコーチは「昨シーズンの財産」という表現で、栃木のディフェンスを称えた。「これまでのアグレッシブさはもっともっと強調していますし、新加入メンバーとともに、今まで良かった部分は継続させなければならず、それは大きな財産になっています」と長谷川ヘッドコーチはその財産をさらに進化させている。
ファイナルでの田臥選手、アーリーカップでは竹内選手も飛び込んだルーズボールは栃木の大きな武器となった。この日も鵤選手、山崎稜選手が飛び込んでおり、新加入選手にもしっかりと継承されている。王者となった要因となる“ブレックスらしさ”はまだまだ尽きない。竹内選手が、ボーズマン選手やカイル・リチャードソン選手にゴールに導く花道を作っていたような自己犠牲を厭わないチーム力もまた、栃木の強さである。また、最年長37歳の田臥選手をはじめとした負けず嫌いもそうだ。それら一つひとつがBREX MENTALITYとなって、日本一のファンとともに新しい栃木をさらに強く強くさせていく。
上出来であったホーム開幕戦だったが、敗れた三河は昨シーズンのチャンピオンシップセミファイナルで敗れた呪縛から解放されるにはブレックスアリーナで勝つしかない。第2戦は本日18:05よりティップオフ!
文・泉 誠一/写真・吉田宗彦