7千人収容可能な府民共済SUPERアリーナを本拠地とする大阪エヴェッサのアリーナ環境は、B1クラブの中ではトップクラスである。混戦となった昨シーズンの西地区において大阪は、1ゲーム差で琉球ゴールデンキングスに及ばず、チャンピオンシップ進出に届かなかった。アリーナを埋めるためにも勝たねばならない2シーズン目は、7人の戦力を入れ替えて、さらなる高みを目指す。
2人のNBA経験者を獲得
目玉は二人の元NBA選手だ。グレッグ・スミス選手はヒューストン、ダラス、ミネソタと渡り歩いた5シーズンを世界最高峰でプレーしてきた。ヒューストンでの2012-13シーズンは70試合に出場し、そのうち10試合を先発で起用されている。スタッツは平均4点、3.3リバウンドと平凡な数字だが、それは世界のトップがひしめくNBAでの話。バスケット後進国で行われた関西アーリーカップの西宮ストークス戦では28点を挙げた。
桶谷大ヘッドコーチは「まだまだシェイプできていない」と言うように、コンディションが整っていなかった。そのため、「ミッドレンジに誘い出されて、そこからビッグマンにパスを出されてアリウープされたが、そこはついていく必要がなく2点を打たせておけば良かった」点を指摘し、まだまだ試合勘も戻っていない。NBA時代に培った周りを生かすプレーを大阪でも試みていたが、合流したばかりで意思の疎通が合わず、タフショットを選択し、それが決まっただけ。しかし、それでもスタッツを残す身体能力はさすがである。28点を挙げたがセルフィッシュな感じはなく、球離れも良く、チームプレーを優先していた。
デイビッド・ウェア選手はUCLA出身で、高校時代はマクドナルドオールスターゲームに出場した有望株。サクラメントでのプレー歴はあるが2014-15シーズンに2試合、合計3.5分に出場しただけ。その後、昨シーズンまで2年間をスペインリーグでプレー。3Pシュート42%と高確率で決めており、208cmながらアウトサイドシュートが得意なようだ。アーリーカップではあまり印象に残らなかったが、「もっとクォリティの高い選手。もっとチームに慣れることが先決」と桶谷ヘッドコーチは話しており、まだまだこんなものではない。
「チームメイトがデイビッドの良いところを理解して使えるようになれば、チームケミストリーとしては良いパーツになる。時間はかかるとは思うが、本来の力を引き出していきたい」
スミス選手とともにNBA経験のある2人がいつフィットするかがカギとなる。ケミストリーが合ってくれば、強豪クラブになり得るポテンシャルを感じた。
アルバルク東京から移籍してきたトレント・プレイステッドは、昨シーズン途中からとはいえ、B.LEAGUEを経験しただけあり、「チームにエナジーを与えてくれたり、ディフェンスのところでインテンシティを持ってやってくれている」と桶谷ヘッドコーチは合格点を与えていた。
関西出身選手たちの躍進がカギ
日本人は藤高宗一郎選手、熊谷尚也選手、安部潤選手、寒竹隼人選手が加入。昨年、リオデジャネイロオリンピックでシンデレラガールとなった女子日本代表の栗原三佳選手(トヨタ自動車アンテロープス)と、今オフに結婚を発表した藤高選手は稼がなければならない。「スペースがあれば1on1を有効に使える選手であり、チームの武器になる」と桶谷ヘッドコーチの期待も高い。アーリーカップでは積極的に仕掛けていたが、フィニッシュの精度を欠く場面も見られた。しかし、大阪には大村将基スキルコーチがいる。しっかりとハンドリングなど基礎技術が向上すれば、化けるだけの身体能力はすでに持ち合わせている。地元大阪で錦を飾れるか?
アーリーカップにおいて、「昨シーズンはチームとしてなかなか出なかったペネトレイトキックを、澤邉が出していたのは評価ができる。一番の成長を見せてくれた」と桶谷ヘッドコーチを驚かせたのがルーキーの澤邉圭太選手である。「13人登録できる今大会において13番目で入った澤邉が、あれだけのプレーを見せつけたら、周りの選手たちも危機感を持ったと思う。彼の活躍によりチーム内での切磋琢磨が生まれたのは非常に良かった」と起爆剤となった。澤邉選手とともに同じ大阪学院大学出身の先輩、合田怜選手も良い動きを見せており、若手選手の成長が大阪を勢いづけていく。
B.LEAGUEチャンピオンチームからやってきた熊谷尚也の挑戦
B.LEAGUE初代王者となった栃木ブレックスから鳴り物入りでやってきたのが、熊谷選手だ。「いろんな方に期待していると言われますが、僕自身が栃木で何をしたかといえば、何もできていなかったゲームの方が多かったです」と満足したシーズンではなかったようだ。外も中もできる器用な195cm。3番ポジションでの起用が期待されている。だが、3位決定戦の西宮戦では4番ポジションでも活躍を見せた。
「昨日、根来(新之助)さんがケガし、その時から4番で出ると思って準備していたので難しさはないです。オンザコート2の時に3番で僕が出ればサイズアップできるので、そこをアドバンテージとして突いていければ、今日のようなゲームももっと楽に戦えたのではないかと思います」
2つのポジションを担えることは、大阪にとってもバリエーションが広がる。
「栃木で学んだことを生かしてチャレンジしたい」と移籍を決めた。大阪での目標は、「まずはチャンピオンシップ出場が絶対条件。その先にある優勝を目指しています。大阪は7人が新規加入選手であり、まだまだコミュニケーションの部分が難しいです。1試合1試合チームとして戦って、成長していくことが最初にやるべきこと」と意気込みを語ってくれた。初お披露目となった大阪のファンには、「オフェンスではアウトサイドシュートやドライブで切り込んでリングにアタックするプレーや、ディフェンスの部分もファンにはしっかりと見ていただきたいです」と自身の長所をアピールしている。
B.LEAGUEとなったことで年俸が高騰しているようだ。必然的に、チャンピオンとなった選手たちには好条件でオファーが来たと考えられる。どれくらい年俸アップされたのか?ボソッと聞いてみると目を丸くして、こちらを凝視。一呼吸おいた後、笑いながら「お金じゃないです。自分が成長するため、チャレンジするために来ました」と強調していた。
文・写真 泉 誠一