首の皮一枚でB1残留を果たした横浜ビー・コルセアーズのB.LEAGUE2年目が始まろうとしている。夏休み終わりの8月26日、多くのファンを迎えて公開練習が行われた。時折、歓声や拍手が降り注ぐ温かい空間だったが、練習を見ていて不安が過ぎる。
ディフェンス練習なのに、なぜ簡単にシュートを決められてしまうのか──
トランジションディフェンスの練習では、後方から追う選手がなぜ全力で走らないのか──
日本代表の大黒柱として長年活躍し、今シーズンより新たな指揮官となった古田悟ヘッドコーチに、その危機感が感じられない練習内容に対する不満をいきなりぶつけてみた。
「まだまだチーム練習が始まったばかり。でも、そこを詰めていかなければならない。昨シーズン、単純に失点してしまっていたのもその部分。ハーフコートでがんばって守り切っても、相手にリバウンドを獲られたり、トランジションで走られてしまっていた。逆に我々が走らなければならないのに、走れていなかったりもしていた。40分間走り続けなければ勝てないし、10分や20分だけそれができていてもあまり関係なく、最後の10分こそしっかりできなければ意味がない。皆さんの厳しい目も含めて、プレッシャーをかけてもらいながら成長していくしかない」
昨シーズン途中からアソシエイトコーチとしてチームを見ていて感じた課題点は、「ディフェンス・フィジカル・トランジション」。開幕に向け、まずその3つのレベルアップに注力している。フィジカル面では、昨年のリオ五輪まで女子日本代表選手たちに対し、世界と戦える身体作りをしてきた窪田邦彦ストレングスコーチを迎え、改革は始まったばかり。「いっぺんに全ては変えられないので、まず足りない部分を強化している」ところから着手する古田ヘッドコーチ。1シーズンを通してどこまで積み上げられ、成果を挙げられるかが試される。
「昨シーズンはどん底の状況の中でも、ブースターの皆さんの応援はすごかった。見放されても致し方ない成績だったにも関わらず、今日もこれだけ多くの方が足を運んでくれたというのは期待していただいている証拠。とにかくその期待に応えたい!」
昨シーズンは「カバヤ」が足りなかった!
「練習中でもコート上で100%の力を出せなかったらプロではない」と言い切る蒲谷正之選手。その言葉通り、常に全力でハッスルし、チームを引っ張っていた。ケガするかどうかは紙一重であり、アスリートであれば常にその不安と背中合わせにある。この日も何度か接触があった。昨シーズンは開幕1週間前に骨折し、戦線を離れる時期が長く続いた。その間、蒲谷選手のハッスルプレーが足りなかったことが、下位に甘んじてしまった最大の原因と考えられる。
開幕まで1ヶ月余り、「まだスタートラインに立っていないのが現状だが、別に焦る必要はない」とベテランは言う。bjリーグ 2012-2013シーズンを制し、MVPを獲得した経験から、あの時と同じ道を歩めるようにすれば良いだけと考えてもいる。
「最終的な目標である『優勝』はみんな変わらないし、いきなり最高のチームを作れるわけもない。段階を踏みながら徐々に作っていって、最後にチャンピオンシップで最高のチームにガチッとなれれば良い。bjリーグで優勝したときはそうだった。ただただ高い塔を作るのは簡単かもしれないが、土台からしっかりと揺るがない堅いチームを作っていきたい」
横浜には「ルーキー満田」がいる!
昨シーズン、筑波大学ではインカレ3連覇を成し遂げ、アーリーエントリーでやって来た横浜ではどん底を味わう希有な体験をしたのがルーキーの満田丈太郎選手である。
「いろんな葛藤がありましたね。ある意味、最高と最低のチーム状況を短期間で見ることができました。同じことをしないようにすれば、今シーズンはもっと良くなっていくと思っていますし、あとは上がるだけ。逆に良い経験ができました」
勝てない時期も、下を向かずに率先して先輩たちからアドバイスをもらいながら、1日でも早く戦力になろうと前向きに取り組んでいた。
今シーズン巻き返すためには、弊誌Vol.11の表紙を飾った田渡凌選手とともに、満田選手ら若手の力が必要不可欠である。
「試合に出るタイミングを自分から作っていかなければいけないですし、そうしなければ成長もできません。流れが重くなることが試合の中では必ずあります。その時に途中から入って、凌くんや(細谷)将司さんとともにかき回したり、速い展開にすればリズムを変えることができる。そうなれば気持ちの面でもチームを上向かせることができると思っています」
シューティングガードにポジションアップしたことで、課題はディフェンス。
「特に2番ポジションにはシューターが多く、スクリーンの使い方も上手いので、そこの駆け引きをしっかり自分から仕掛けられるようになりたいです」
ベテラン竹田謙選手のプレッシャーのかけ方をお手本にしながら、リーグ屈指のスコアラーである川村選手を相手に日々の練習から努力を続けている。
蒲谷選手も、「今はどんどんミスしてもらって構わない。そうすることで修正できるし、アドバイスもできる。消極的になってしまうとミスも出ないし、直してあげることもできない。常にアグレッシブにプレーしてもらいたい」と寛容しながら成長を促す。
「馬場(雄大選手/アルバルク東京)がルーキーで入ったり、安藤(周人/名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)がいろいろと活躍してるので、そこに『俺もいるぞ』と証明していかないとこの先が厳しくなってきます。横浜には『ルーキー満田』がいることをしっかりと示していきたいです」
アーリーカップの捉え方
3大タイトルのひとつと明言された「アーリーカップ」が今週末9月1日(金)から開幕する。横浜の初戦の相手は、船橋アリーナをホームとする千葉ジェッツ。古田ヘッドコーチは、「これまで練習してきたことを最低限やること。そこで見えた課題を克服しながら積み上げていきたい」と話しており、あくまでリーグ戦へ向けた準備というスタンスだった。
「もちろんやるからには勝負なので、絶対に勝ちにはこだわっていきたい」と蒲谷選手は前置きした上で、「ただ、今シーズンは全て新しくなっており、そこに向けてチーム内のことを全て吐き出すのかといえばそうではない」と手探りの戦いになりそうだ。出場機会が巡ってくるであろう満田選手は、「シュート時の姿勢を意識して改善しています。ゲームの中でもその姿勢を維持できるか試していきたいし、そこでしっかりつかむことができればその後も良くなると思います」とやはりレベルアップの場として捉えていた。
昨シーズンとほぼ変わらぬ戦力が残った横浜は、同じ轍は踏まないように新しいことにチャレンジしている。どん底から巻き返すための一歩目を踏み出しはじめた。
文・写真 泉 誠一