Bリーグチャンピオンシップ・セミファイナルでアルバルク東京を倒し、ファイナル進出を決めた川崎ブレイブサンダース。2大看板と言われるニック・ファジーカス、辻直人に加え『第3の男』篠山竜青の活躍が頼もしく光る。さらにチームの強みは選手層の厚さであり、べンチスタートのメンバーが流れを引き寄せる場面も珍しくない。その中で今シーズン存在感を増してきたのは2年目を迎える#11野本建吾だろう。北陸高校、青山学院大で日本一を経験、200cmの高さと機動力を併せ持つ逸材として早くから注目を集めた。ルーキーシーズンこそ出番はそう多くなかったが、「今季は自分の役割を明確に理解したことで着実に成長した」と北ヘッドコーチ。セミファイナル第1戦では2Q途中からコートに出ると2本連続のジャンプシュートでチームを勢いづけ、役割の1つであるリバウンドは5本奪取。「いいところで果敢に飛び込んでくれた。今日の流れを変えた1人と言える」と、北ヘッドコーチから高評価を得た。潜在能力を考えればまだのびしろは十分。初代王者を目指す川崎を支える1人となれるか、最後の大舞台ファイナルでの活躍に期待したいところだ。
――今シーズンはプレータイムも増え、活躍する場面も多くなりました。自分の中で何か変化したものがあるのですか?
意識が変わったと思います。1年目のときはコートに出てもミスすることが怖くて、ミスしないように、ミスしないようにとそればかりを考えていました。それだと出ている意味がないんですよね。なぜそうなったかといえば、自分の役割がしっかりとつかめないままコートに出ていたからだと思います。けど、試合をこなしていくうちに成功したプレー、失敗したプレーを思い浮かべるようになり、成功したプレーの中に自分の役割があるということがだんだんわかってきました。ならばその役割をしっかり果たせばいいんだと意識するようになったんです。たとえば速攻で走ったりとか、リバウンドに跳んでセカンドチャンスをものにしたりとか、ディフェンスではハッスルプレーで相手のエースを抑えるとか、そういう意識がしっかり芽生えてきました。
――意識が変化したことで自分を生かせるようになった?
そうですね。うちのチームのレベルは高いので、その中で自分が持っているものをいかに発揮できるかというのはまだまだ足りないところもありますが、少しずつ発揮できるようになっているとは思います。戦う以上やっぱり結果がすべてじゃないですか。少しでもいい結果が出せることを意識してプレーしていくうちに失敗より成功が増えてきたという感じです。そのことで気持ちも安定してきたし、失敗を恐れないようになりました。
――昨年はコートに立てない時間もありましたが、落ち込むようなことはなかったですか?
プレーヤーである以上はやはり試合には出たいし、出られないことで気持ちが落ちることも時にはありますが、僕は大学のときも下級生時代に同じ経験をしているので、そのときのことを思い出して前進していくしかないと思っていました。大学では1年上には永吉さん(佑也・川崎ブレイブサンダース)や天傑さん(張本・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)みたいに力のある長身選手がいたので、その中で自分の役割を見つけていかなきゃならないのは今と同じでした。だから、1年目はプレータイムが少ないからといって落ち込むことはあまりなくて、それより(プレータイムを)増やすために何をするべきか考える方が多かったですね。
――普段はおっとりとして優しい性格で知られる野本さんですが、それがコートの上で裏目に出るようなことはありませんか?
1年目はありました。なんかすごく遠慮してしまって、その結果自分のいいところを全然出せなくて終わってしまうようなこともありました。でも、さっきも言いましたが、この世界は結果を出さないとダメなわけで、それがだんだんわかってきて、今では何がなんでも、何をしても、たとえ少ないプレータイムの中でも自分の持ち味を出して、存在感を示さなきゃならないと思っています。おっとり優しいのはコートの外だけにしたいです(笑)
――チームメイトのニック・ファジーカス選手やライアン・スパングラー選手から刺激を受けたり、学んだりすることはありますか?
もちろんあります。練習していても効率のいいプレーとか狙いどころとか、いろいろ勉強になりますね。選手は誰でも長所と短所がありますが、ニックやライアンは自分の長所を最大限に生かすプレーをしています。自分で言えば、それは速攻とか、リバウンドやインサイドプレー、また空いたらためらわずシュートを打つといったところなので、それはこれからも積極的にやっていきたいと思っています。
――Bリーグ優勝に向けて一言お願いします。
大きな試合の前はいろいろ考えると興奮して眠れなくなるので抑えるようにしています(笑)。ただベンチから出て行くときは逆にちょっと興奮していることがエネルギーになって身体がよく動くこともあるので、適度な興奮はいいかもしれません(笑)。どんな戦いでも同じですが、特に大舞台ではあがることなく、ディフェンスでは相手のエースをしっかり抑えたりミスマッチをついて攻め込んだりしてチームの勝利に貢献できるよう頑張ります。練習はすごくやっているので本番で弱気になることなく全力を出し切りたいと思います。
――今シーズン通して自分が一皮剥けたなあという感覚は?
今、バスケットをすることが楽しくて、とても充実していますが、一皮剥けたかどうかは、うーん、どうでしょう。その答えが出るのはチャンピオンシップの最後の戦いの後だと思っています。
文・松原貴実
写真提供・B.LEAGUE