5月3日、代々第二体育館で行われた東地区頂上決戦は、栃木ブレックスが79-76でアルバルク東京を下しレギュラーシーズン東地区チャンピオンに輝いた。
この日、栃木のベンチには故障欠場の田臥勇太とジェフ・ギブスの姿がなかったが、その穴を埋めるべく躍動したのはベンチメンバーたちだ。中でも第1クォーター残り4分からコートに出た須田侑太郎はブザービーターの3ポイントシュートで場内を沸かせると、続く第2クォーターには内外に果敢に攻めて9得点をマーク、持ち前のハードなディフェンスとともに栃木の『頼れる1ピース』であることをアピールした。
その須田についてトム・ウィスマンヘッドコーチは「彼は非常に練習熱心なハードワーカー。私がこのチームのヘッドコーチになった2年前はまだプレータイムも短かったが、常にハードワークを続け、その結果こうして大きな役割を担えるようになった」と評価する。これから始まる熾烈なチャンピオンシップを戦い抜くためにも、こうした新しい力の台頭は心強い。「彼は強い身体を持ち、シュートでも貢献できる存在になってきた。さらなる成長が期待できる選手だ」と続けたウィスマンコーチの顔には明るい笑みが浮かんだ。
自分を磨いてチャンスを待つ
「自分は選手としてどれだけ才能があるのかはわかりませんが、努力できるという才能だけはあります。それだけは誰にも負けない自分の取り柄だと思っています」――それはかつて須田の口から聞いたことばだ。
北海道出身。東海大学付属第四高校(現東海大学付属札幌高校)から東海大に進んだが、有力選手が揃う強豪チームの中で「簡単に自分の出番がないことは覚悟していました」と言う。心に決めていたのは『まず自分が成長する』ということ。
「下級生のうちは自分のプレーを磨くことに専念して、勝負は上級生になってからと考えていました」
3年次にはケガに泣く期間もあったが、それを乗り越えて迎えた最終学年ではキャプテンでエースの田中大貴(アルバルク東京)が日本代表活動でチームを留守にする間、副キャプテンとしてチームを力強く牽引した。スタメンに起用されたのは秋のリーグ戦の途中から。期待を裏切らない活躍で優勝に貢献すると、続くインカレでも2連覇達成の原動力となった。当時の取材メモを読み返すと、東海大・陸川章監督は須田についてこんなふうに語っている。
「とにかく誰よりもコツコツとまじめに努力する選手。私はその姿を彼が下級生のころからずっと見てきました。たくましくなった彼の活躍を見てあらためて思うのは『ああ、努力は嘘をつかないのだなあ』ということ。私はそれを須田に教えてもらった気がします」
卒業後、プロ選手の道を選んだ須田はインアクティブ選手としてリンク栃木ブレックスに所属。ベンチには入れず、会場の隅で戦況を見つめる日々が続いたが、自身にとってはそれも想定内。「下級生のうち自分のプレーを磨くこと」と決めていた大学時代と同様に努力する日々が続いた。
自分の仕事はアグレッシブなディフェンス
そんな須田にとって今年はやっと訪れたチャンスのシーズンだった。コートに出た須田はディフェンスで勝負することを考えていたという。
「うちには得点力がある選手がたくさんいるので、僕はまず身体を張った粘り強いディフェンスを自分の持ち味にしたいと考えました。常に意識していたのは相手にしつこく食らいつき、そこから流れを呼び込めるようなディフェンスです。今シーズン徐々にプレータイムが増えたのはそこを評価してもらえたのではないかと思っています」
ディフェンスを武器とするために心がけているのは『準備』だ。
「ポジション的に対戦相手のエースとマッチアップすることが多ので、相手の特徴、得意な攻めパターンなどを研究して試合に臨みます。相手を知る『準備』は欠かせないことです」
もちろん、ときには裏をかかれたり、相手の巧さにしてやられることもある。この日、マッチアップしたアルバルク東京のディアンテ・ギャレットに28得点を献上したことは「大きな反省点」となった。
「技術のレベルが高いというのもそうですが、一番すごいなと感じるのは、やはりプレーの判断力ですね。ギャレットしろ、田中大貴にしろ、その点はさすがだなあと思います」
だが、それもまた1つの学び。試合のコートに立てたからこそ学べるものは多い。「経験を積むことで自分の中に少しずつ余裕ができてきたように思います。余裕が出てくると自然と周りが見えるようになる。周りがよく見えれば良い判断ができます」。さらに言えば判断力が生かされるのはディフェンスに限らない。この日は2本の3ポイントシュートを含め14点をマークしたオフェンスにおいても打つべきところで打つ良い判断が光った。「あれは味方がスクリーンをかけてくれたり、日ごろからコーチ陣がいいアドバイスをしてくれているおかげです」と、本人は控え目だが、武器と自負するディフェンスだけではなく、シュートでも貢献できるようになったのは少なからず自信につながっているのではないか。
「もちろん、得点で貢献できたことはうれしいし、自信にもなります。これからも積極的にゴールを狙っていく姿勢は持ち続けるつもりです」。だが、そう言いながらも「途中からコートに出る自分がまずやるべき仕事はディフェンス」という思いに変わりはない。「アグレッシブなディフェンスでいい流れを作る。あるいは流れをさらに良くする。それが自分に課せられた1番の仕事だと考えています」と、きっぱり言い切った。
5月7日、レギュラーシーズン全日程が終了し、最終順位の決定と同時にチャンピオンシップォーターファイナルの顔合わせが発表された。東地区1位の栃木が対戦するのはワイルドカード1位の千葉ジェッツ。同じ東地区3位と言えども星の差は2つ、4月末の対戦では2連敗を喫した強敵だ。だが、「ここまできたら相手がどこでも同じ」と須田は言う。
「いかに自分たちのバスケットを貫けるかです」――そのために自分が担う役割は承知している。黙々と努力を重ねた2年間を経て、初めて迎える大舞台。新たなキーマンとして躍動する須田の姿に期待したい。
文・松原貴実 写真・安井麻実