レギュラーシーズンホーム最終戦であり、東地区チャンピオンに王手を懸けて臨んだ栃木ブレックスだったが、千葉ジェッツに2連敗。過去最高となった4058人の前で東地区優勝を決めることはできなかった。前節の秋田ノーザンハピネッツ戦で、右ヒザを負傷したジェフ・ギブス選手を欠く苦しい状況でもあった。60試合と長丁場で順位を決めてきたレギュラーシーズンはまもなく終わる。最終週は8日間で5試合を戦わなければならない過密日程も相まって、「ハードなスケジュールの中で選手のコンディションもマネジメントしなければならない」とトーマス・ウィスマンヘッドコーチは話していた。
すごく楽しかった16分間
栃木はすでにチャンピオンシップ進出、クォーターファイナルのホーム開催が決まっている。さらなるケガ人を出さないため、少しでもコンディション良くチャンピオンシップへ向かうためにも、選手の起用をセーブするのは常套手段である。NBAを見ても、シーズン中からチームのエースをコンスタントに休ませることも少なくはない。それがチャンピオンシップを勝ち抜くため、ファンを喜ばせるためでもある。
千葉戦を迎えた時から残る5試合で1勝または東地区2位のアルバルク東京が敗れれば、その時点で東地区優勝が決まる状況であり、無理をさせる必要もなかった。なんとか2位となってクォーターファイナルでのホーム開催を勝ち獲りたい千葉とはモチベーションが違う。また、このままの順位で終われば、千葉とはクォーターファイナルで対戦することになる。栃木が慣れないゾーンディフェンスを敷いたのも相手を攪乱させるためと考えることだってできる。勝った千葉、敗れた栃木の両チームにとって、全てはチャンピオンシップでさらなる勝利を得るための戦いであった。
その試合でチャンスを得たのが、ルーキーの橋本晃佑選手である。過去51試合中、コートに立ったのは34試合であり、平均出場時間は約3分。これまでの最高出場時間は、2月18日の三遠ネオフェニックスに93-69で快勝した試合で10分間コートに立つことを許された。ギブス選手を欠いた千葉戦では、203cmの長身ながら得意の3Pシュートを決めてみせた。
「自分の役割はしっかり果たせたんじゃないかなと思います。オフェンスでは得点を決められましたし、ディフェンスでは(タイラー)ストーン選手や小野(龍猛)選手を抑えることはできたと思います」
16分24秒、最高出場時間を更新。第4クォーターは10分間コートに立ち続け、思い切りの良いプレーで千葉に冷や汗をかかせた。
「ジェフがケガをしてインサイドが薄い状態だったが、このような大事な試合でプレータイムをもらえたことで経験値を上げることができました。今までは1〜2分程度しかプレーできなかったので、今日は自分の色を出せたことが良かったです」
敗れはしたが、存分にコートを走り回れたことで、「すごく楽しかったです」という素直な感想が初々しい。
栃木生え抜きのビッグマンのさらなる成長に期待
なかなか試合に出る機会がなかった橋本選手にとって、試合勘がつかめずにオフェンスは単調になるのは否めなかった。「今日はディフェンスにしっかりフォーカスしていました」と話すとおり、長身と長い手を存分に生かして、得点源の芽を摘んでいく。「前半でストーン選手にやられてしまっており、ハーフタイム時に田臥(勇太)さんや須田(侑太郎)さんにアドバイスをもらっていました」と先輩たちの教えを守り、第4クォーターは自身も納得のいくプレーを見せられた。
残るレギュラーシーズン3試合でも、主力メンバーのコンディションを考慮すれば、出場機会が増える可能性は十分に考えられる。「今日得たチャンスは生かせたと思うので、残る3試合でもチャンスをもらえればしっかり生かして、チャンピオンシップにもつなげていきたいです」と意欲を燃やしている。
栃木県には、将来有望な中学生が少なくはない。だが、高校入学時に県外に出てしまう傾向にある。宇都宮工業高校で活躍した橋本選手は、栃木県で育った生え抜き選手。さらに、トーマス・ウィスマンヘッドコーチが指揮していた日本代表時代には、高校生だった橋本選手が日本代表候補に選出されている。ウィスマンヘッドコーチの秘蔵っ子であり、なかなか2m越える選手が現れない日本の現状を鑑みても、ビッグマンの成長は明るい材料である。少ないチャンスの中で信頼を勝ち取っていくためにも、1年間を通して栃木で培ったプレーを披露してもらいたい。
文・写真 泉 誠一