学生に対し、Bリーグの舞台でプレーできる門戸を開いているのが『特別指定選手制度』だ。
即戦力としてすでに活躍する選手がいれば、プロのレベルを吸収して成長につなげる場でもある。卒業したばかりの大学4年生だけではない。在学生もその力が認められればチャンスを与えられる。プロの世界を垣間見られるインターンシップのようなものと言えよう。
B2では高校生Bリーガーが誕生している。岩手ビッグブルズには、ともに盛岡南高校の澁田怜音選手と永田渉選手が加入。澁田選手はすでに11試合に出場し、平均3.6点。愛媛オレンジバイキングス戦では10点を挙げた。
福島ファイヤーボンズには、昨年のインターハイで全国3位となった福島南高校のキャプテン、水野幹太選手が地元でプロの世界に足を踏み入れている。男子U-18日本代表としてアジア2位となって世界の扉を開いたメンバーの一人でもあり、これまで8試合に出場し平均6.3点だが、2桁得点を挙げたのは3試合を数える。
流れを変える3Pシュートで会場を沸かす
3月5日に行われたB2中地区1位のFイーグルス名古屋との2戦目。序盤からFE名古屋にリードを許していた1クォーター終盤、出番はやって来た。「流れを変えるのが自分の役割」と準備していた水野選手は、交代直後に3Pシュートを決める。19-23と4点差に迫り、会場を沸かせた。
「攻めないと何が起こるかは分からないですし、引いた状態では相手も仕掛けてきます。自分からどんどん攻めて、そこでシュートが入らなくても良いプレーで終われば、またディフェンスからやり直せば良いと思っています」と、プロのコートでも一歩も引かずにゴールへと向かう姿勢を貫いている。
しかしディフェンスでは、183cmの水野選手より5cm低いFE名古屋の福澤晃平選手にフィジカルで押し込まれ、失点が続く。「スクリーンなどをうまく使って相手も攻めてくるので、そこで自分が引っかかってしまったり、先を読みすぎて(引いて守った時に)3Pシュートを打たれてしまったことが多かったです」と反省点を挙げた。それもまた経験である。
キャプテンの村上慎也選手は、「彼の持ち味は思い切りの良いプレーです。U-18日本代表として国際試合を戦ってきた経験があり、物怖じしないですし、先輩たちに遠慮すること無く思い切りプレーしてくれています。得点を獲りたいタイプの選手でもあるので、それをもう少し僕らも生かしてあげるようにしていきたいです」と話しており、プレーしやすい環境を作ってくれていた。
さらに、「自分がアタックしながら周りも生かせるようになれれば、もっともっとプレーの幅も広がってくる。まだまだ伸びる要素がある選手ですし、その手助けをしていきたいです」とアドバイスを送る。
先輩たちから様々な教えを受ける水野選手は、「自分でも点を獲り、周りにアシストもできるプレーヤーになりたいです」と抱負を掲げ、チームの勝利のためにより良いプレーを目指す。
コートに立ったことで明確となっていくプロとしての未来図
水野選手にとってFE名古屋戦は、地元福島市で行われた初のホームゲームだった。「多くの観客の中でバスケットができるのはすごく楽しいですし、何よりもバスケットが好きなので、これからもプロとしてこのような環境でバスケットをしていきたいです」と、その魅力を知ってしまったようだ。これまでは漠然としていたプロへの思いだったが、「大学を卒業したらBリーグでプロとしてプレーしたい」と、今では明確な目標に定めている。その目標を叶えるのが福島かと聞けば、「なるべくボンズに入りたいです。卒業するまでにB1へ上がってくれれば、絶対にボンズでプレーします」と注文をつけた。
3月1日に行われたBリーグ理事会において、B1ライセンスの交付を見送られた福島。売上と観客動員のところが審議されており、福島市国体記念体育館には1341人しか集客できなかった。しかし、小さな子どもからお年寄りまでチームカラーのフクシャパープルに身を包み、熱心に応援していたのが印象的だった。
今後も多くの観客の前でプロ選手として活躍するためには、クラブ側から必要とされる選手として成長しなければならない。短いながらもプロの環境に身を置いたことで、「プロの方々は判断能力がすごく早く、さらにフィジカルも強いです。スピードや能力だけならば、もしかしたらU-18で戦った外国人選手の方が勝っているかもしれないですが、判断力がすごく高く、周りを使っていく上手さもあります」と学ぶことは多い。何よりも、プロ選手たちのバスケットに対する『覚悟』を間近で感じ取っている。
「先輩方がどれだけバスケットに賭けているかを自分も分かるようになってきました。もっともっとがんばれば、これ以上のレベルにいけると感じるように最近はなってきました」
大学進学のため、水野選手は3月で契約期間が満了となる。福島の一員としてBリーグのコートに立てるのもあとわずかだ。
3.11はともに震災に見舞われた福島と熊本がプロバスケで復興支援
次戦が行われる3月11日は、東日本大震災から6年目を迎える。対戦する熊本ヴォルターズも、2016年4月14日に熊本地震で被災した地域にあるプロクラブ同士。福島民報社とブースターたちの力で復興を祈念する応援フラッグを完成させ、熊本に届けられる。迎える熊本では、『がんばるばい熊本×がんばっぺ福島 復興メモリアルゲーム』と題し、スポーツの力、プロバスケットボールの力で盛り上げていく。
福島でプロバスケ選手として活動できている意義について、村上キャプテンからメッセージをもらった。
「東日本大震災から6年が経ちますが、まだまだ福島自体は元通りになっていないところもありますし、今まで通りの生活に戻れていない人たちも多くいます。そのような地域にも関わらず、こうしてバスケットができるというのは本当に当たり前のことではなく、常に感謝の気持ちを持ってプレーしていかなければなりません。だからこそ皆さんをもっともっと元気にし、福島をバスケットで盛り上げていけるように取り組んでいきます」
3月11日(土)の熊本戦は、郡山ユラックス熱海でパブリックビューイングを開催。さらにこの日は、NBA中継を行っているWOWOWが、「ガンバレ福島!WOWOW NBAファミリーバスケットボールフェスティバル」と称し、元シカゴ・ブルズのロン・ハーパーが復興支援に駆けつけトークショーやクリニックを行う予定だ。郡山市出身の元ウィザーズなどのスタッフとして活躍された佐藤 晃一氏(現JBAスポーツパフォーマンスコーチ)、福島市出身のアルバルク東京のGM補佐である渡邉 拓馬氏も登場してイベントを盛り上げる。12時開場、観覧無料。
福島ファイヤーボンズ
がんばるばい熊本×がんばっぺ福島 復興メモリアルゲーム
ガンバレ福島!WOWOW NBAファミリーバスケットボールフェスティバル
文・写真:泉 誠一