BリーグやWリーグ、あるいはNBAなどの海外リーグにとどまらず、他競技でもなかなか見かけないベストトランスファー賞。ある意味では専売特許とも言えるこの賞こそがBBS AWARD の最大の売りなのだと、この際言いきってしまいたい(編集部や選考委員の許諾は得ていない)。プロリーグは移籍が当たり前の世界。だからこそ十何年も1チーム一筋で過ごす選手すごくね? って話にもなるのだが、そうしたくてもできない選手や、やろうと思えばできるけど自身のステップアップのために環境を変えたいという選手のほうが圧倒的多数なわけで、その中からベストな選手を選ぼうじゃないかというのは何も不自然なことではない。1人でも多くの選手に光を当てるという意味では、今後は例えばベストサウスポー賞とかベストSNS賞とかミスター〇〇賞とかも作っていいくらいだが、それはいつか気が向いたら筆者から編集部に掛け合うことにして、そろそろ本題に入る。
阿部諒に関しては、仙台89ERSに移籍した時点である程度数字を伸ばすだろうという確信はあった。この表現は不適切かもしれないが、タイムシェアという概念が薄かった島根スサノオマジックで出場時間を得ていたからだ。ペリン・ビュフォードや安藤誓哉のような突出した “個” を持たない仙台なら、主役になることもできる。いや、仙台のようなチームでこそ、ディフェンス面の評価も高い阿部のプレースタイルは目を引くような気もしていた。
実際の活躍は想像以上だった。1試合も休まず、60試合全てスターター出場だったのも立派だが、もしかしたら10点近くまでいく可能性もあるんじゃないかな~くらいに思っていた1試合平均得点は、終わってみれば14.6点。古巣・島根戦での35得点を筆頭に、2ケタ得点は45試合もあった。アシストも前シーズンの4倍以上で、リーグ9位。過小評価など1ミクロンもしていないつもりだったが、そのポテンシャルを低く見積もっていたことをただただ恥じるばかりだ。
ただ、「仙台のようなチームでこそ」というのは悪い見立てではなかったと思う。藤田弘輝ヘッドコーチは、日本人選手も得点に絡めるオフェンスをしっかり構築していた。小林遥太も青木保憲も仙台に移籍してから得点力が上がっている。それは出場時間が増えたからという単純な理由だけではなく、チームの戦略・戦術を遂行することで彼らは数字を伸ばすことができたのであり、阿部はそれを最もわかりやすく証明したということなのだ。
今シーズンは、かつて特別指定選手としてBリーグデビューを果たしたサンロッカーズ渋谷に戻る。よく帰ってきてくれましたとか、ベンドラメ礼生や田中大貴のような存在感を出してほしいとか、仙台と異なる戦略・システムで同じようにプレーできるのかとか、いろんな意見があるとは思うが、そんなことはどうでもいい(よくない)。それ以前に何を意味しているかというと、2シーズン続けてベストトランスファー賞に選ばれる権利が発生したということである。世界的にも希少価値の高い賞(自画自賛)である以上、連続受賞で世界に誇る阿部諒となっていただきたいものだ。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2023-24シーズンに準ずる。