BBSアワード新人賞候補には、富樫勇樹、西村文男に次ぐ千葉ジェッツ第3のPGとして存在感を発揮した小川麻斗、同じく千葉ジェッツの次代のエースとしての期待に応えた金近廉、220cmの高さを武器に横浜ビー・コルセアーズの貴重なワンピースになったカイ・ソット、広島ドラゴンフライズ初優勝の原動力になりCSの話題をさらった中村拓人などの名前が挙がった。が、今回彼らを抑えて選出されたのはレバンガ北海道の島谷怜だ。
失礼を重々承知の上で言うならば、前述した候補選手に比べて島谷の印象は地味かもしれない。17勝43敗と、前シーズン(19勝41敗)より勝率を落としたレバンガの成績が(評価に)影響した面もあるのか本家アワードの新人賞部門ランキングも5位にとどまった。正直、今回のBBS選考会でも島谷と並んで中村を押す声もあったのだが、最後の決め手になったのは42試合にスタメン出場した実績。シーズンを通して “チームを任せられるPG” に成長していった過程が評価された。
これまでレバンガを心技で支えてきたベテランPGの橋本竜馬が抜けた今季はその穴をいかに埋めるかがチームの課題の1つだったはずだ。平均21.23分のプレータイムを得た島谷の中にも当然「やってやる!」の強い気持ちがあったに違いない。本人が「5まで伸ばしたい」と言っていた得点(4.7)とアシスト(4.5)のアベレージはあと一歩届かなかったが、持ち前のスピードとハードワーク、積極的なペイントアタックでチームに勢いを与えた場面は少なくなかった。
そう言えば学生時代の島谷もそんな選手だったなと思い出す。東海大付属札幌高校から進んだ東海大学では2年次と4年次にインカレ優勝を経験しているが、1年上には大倉颯太(千葉J)、1年下には河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)、黒川虎徹(アルティーリ千葉)など有力選手に挟まれ、自分の立ち位置にもどかしさを覚えることもあったのではないか。だが、コートに出るとしっかり自分の仕事を果たす島谷には派手さの代わりに堅実さがあった。特に印象深いのは苦しい試合の連続だった最後のインカレだ。『白鷗大有利』の下馬評を覆して手にした栄冠の陰には冷静な判断力でキャプテンの松崎裕樹(横浜ビー・コルセアーズ)を支え、下級生たちの力を引き出した島谷の献身があったように思う。
厳しいことを言えば、今シーズンのレバンガは結果を残せなかった。島谷自身、『勝てたはずの試合』を勝ちきれなかった悔しさを幾度となく味わったはずだ。その悔しさが来シーズンの島谷をどう変えるのか。どんなふうに一皮剥けるのか。
そんなことを考えながらレバンガの動画をチェックしていたら、桜井良太の記念すべき引退試合(オープニング)で女装して踊る島谷を発見した。ロングのカツラとチアガール風コスチュームを身に着け、存分に身体をくねらせて踊る島谷。振り切っている。違和感なし。先に地味だのなんだのと書いてしまったのが申しわけないほど彼は “十分派手にもなれる子” だった。より速く、より粘り強く、より果敢に。来シーズンのコートでは見る者を驚かせる新たな顔、進化系島谷怜に出会えることを楽しみにしたい。
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2023-24シーズンに準ずる。