今シーズン、原修太は本家BリーグAWARDにおいてベスト5とベストディフェンダー賞に輝いた。Bリーグ発足時のルーキーであり、リーグの歴史とともに7年のキャリアを積んできた29歳。栄えあるW受賞は今シーズンの原の飛躍を物語っており、こちらBBS AWARDにおいてもMVP、ベスト5候補にエントリーされた。が、そのとき挙がったのは「今シーズンの原にはもっと違う賞がふさわしいのではないか」という声。ニュアンスとして近いのは毎年最も印象に残った、あるいは最もインパクトを与えた選手に贈るMIPだが、それだけでは物足りないような気がする。というわけで、今年のBBS MIPは特別感を出すため “スペシャル” を付けさせてもらった。 “スペシャル” が太文字になっているところにご注目いただきたい。
Bリーグを見る楽しみの1つに『シーズンを通して選手の成長を知る』というのがあるが、原にはもっと長いスパンでその楽しみを与えてもらったような気がする。振り返れば8年前、千葉ジェッツの一員になったばかりの原はこんなことを言っていた。
「他のルーキーより自分はいろんな面で劣っています。これまで教わってこなかったことがたくさんあるんですよ。それをこれから1つずつ身に付けていかなければなりません」
国士舘大学時代は世代を代表するシューターとして名を馳せたが、本人曰く「ボールハンドリングが悪いし、ディフェンスも下手です」。練習後は大野篤史ヘッドコーチ(当時)に呼び出され、体育館の隅で、ダメなところ、改善すべきところを指摘される “修業” の日々が続いたという。
それから7年、今シーズンから千葉ジェッツの指揮官となったジョン・パトリックHCは「原は現Bリーグの日本人選手の中で最も優れたディフェンダー」と評する。信頼感が伝わる満点級の高評価だ。これに対し原はすでに代名詞ともなった鍛え抜かれた強靭な身体を武器に相手のエースを抑え込み、ゴール下で屈強な外国籍選手と渡り合い『1番から4番まで守れる選手』として見事期待に応えた。一方オフェンス面でもアグレッシブなプレーでチームを牽引。レギュラーシーズンは59試合にスタメン出場し、残したスタッツは平均10.1得点、1.8リバウンド、2.6アシスト。さらに細かく昨季の数字と比較すればフィールドゴール試投数232→495、3Pの試投数89→275、フリースロー試投数54→117といずれも大きくアップし、いかに積極的にゴールを目指したかが伝わってくる。貢献度を表すEFFに至っては227→540と約2.4倍のアップ。この躍進について原は「パトリックHCになって自由度が増したというか、自分のバスケットスタイルに合っているような気がします。最初にゴートゥガイ(ここぞというときにボールを託される選手)と言ってくれたのもうれしかったし、自分を解放してのびのびプレーできたと思います」と、語ったが、もちろん、それがすべてではないことは知っている。ルーキーシーズンの “修業” に始まり、自分の足りないものに1つひとつ向き合ってくれたコーチ陣、ファンダメンタルを見直し、効率の良いプレーを考え、武器となるフィジカルの強化に励んだ6年間があってこその自分だ。おかげで私たちも『成長する選手を見る楽しさ』をゆっくり味わわせてもらった。
最後に1つ、かつて原から聞いたルーキー時代の話を紹介したい。大野HCから毎日呼び出されてダメ出しされていた時期、自分の力のなさを思い知りメンタルはかなり削られたが、不思議といやではなかったという。どんな厳しい言葉でも自分をしっかり見て、自分のために言ってくれているのが伝わってきたから。
「ああこの人は自分のことが好きなんだと思っていました。好きだから毎日自分と向き合ってくれる。こんなコーチの下でバスケットできる自分は “持ってるなあ” と思いました」
今や千葉ジェッツの柱となり、日本代表候補にも選出され、文字通りトッププレーヤーの1人と目されるようになった原だが、彼が持つ強さ、最大の武器はこの話の中に隠されているような気がしてならない。
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2022-23シーズンに準ずる。