いつまでたっても、そのときはこなかった。
サンプルを蓄積した敵に抑え込まれるどころか、むしろ佐々木がB1に順応してきているようだった。
プレーに安定感と余裕が生まれ、個人能力の高さで状況を解決するケースが増えていった。
既存のB1選手を圧倒するようなパフォーマンスまで出始めたころには、佐々木の評価はそれまでとはまるで違うものとなっていたことだろう。
以前にバスケットボールライブ配信前の控え室で佐々木について、「そんなに続かないと思うんですよねー」とかキメ顔で言っていた僕は、製作陣から白い目で見られているような気がしてならなかったが、僕の予想など当たらないということは僕が一番よく知っているのでまったく気にならない。
間違えたら謝ればいいだけなのである。
生意気な口きいて、すみませんでした。
ある意味では、三遠を襲った未曾有の大災害がB1の佐々木を生み出したとも言える。
シーズン序盤に猛威を振るったヤンテ・メイテンを軸にシーズンを戦っていたとしたら、カイル・コリンズワースがゲームをクリエイトしてくれる試合が続いていたとしたら、佐々木にあれだけの力があると証明する機会は訪れなかったかもしれない。
非常事態で実力を発揮するのはもちろん並ならぬことで、しかもリーグを跨いだ難しい移籍のタイミングでその苦境を乗り越えた佐々木には、まさしく今シーズンのベストトランスファーとして称える価値がある。
残念なことに佐々木自身もそれまでの主力と同様、シーズン途中で大きな不運に見舞われることとなってしまったが、来シーズン以降も続いていくであろう三遠ネオフェニックスの大改革に欠かせない戦力として、大きな期待がかかる。
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2022-23シーズンに準ずる。