アルバルク東京をホームに迎えて戦ったCS(チャンピオンシップ)クォーターファイナル。
1勝1敗で迎えた第3戦で1点ビハインドの島根は最後の攻撃をぺリン・ビュフォードに託した。が、息詰まる40分間の攻防は “ビュフォードの転倒によるターンオーバー” という思いもよらぬ形で幕を閉じる。セミファイナル進出を決めたA東京の歓喜の声が響く中、うつ伏せで倒れたままのビュフォードは駆け寄った仲間たちの声にもしばし答えることができなかった。
ビュフォードが島根に加入したのは2020-21シーズン。それ以前の経歴をチェックしてみるとイタリアを皮切りにオーストラリア、トルコ、プエルトリコ、ロシア、スペインなど4年間でいくつものチームを渡り歩いている。それだけに『能力は高いが、なかなかチームにコミットできないタイプの選手なのでは?』と、要らぬ心配もしてしまった。その印象が変わったのは『ビュフォードがロッカールームで檄を飛ばした』ビデオを見てからだ。
あらためてこのシーズンを振り返ると、ビュフォードは早々と島根の核となり、攻守に存在感を発揮するも、11月半ばから体調不良に陥り長期の戦線離脱を余儀なくされている。島根が8連敗の泥沼に足を取られたのは同じ時期。コートの外から苦境のチームを見ていたビュフォードは試合後のロッカールームで強い言葉で仲間を鼓舞した。
「(こんな試合をしていたら)夜も眠れない。誰かがやるとか、やらないとかじゃない。みんなでやるっきゃないんだよ!」
言わずにはいられないといった激しい口調で語るビュフォードはチームを渡り歩く一匹オオカミではなく、仲間と戦おうとするチームプレーヤーだった。
継続を決めた翌シーズンには島根の初めてのCS進出に大きく貢献。3年目となった今シーズンは58試合にスタメン出場し、平均22.5得点でリーグの得点王に輝いた。他にもリーグ2位となったアシスト(7.9)を始め、リバウンド(9.5)、スティール(1.5)、ブロック(0.9)と主要5部門でトップテン入り。まさに『最強のオールラウンダー』と呼ぶにふさわしい活躍だったと言えるだろう。
図抜けた身体能力の高さは誰もが認めるところだが、加えて光るのは1対1の強さ。わずかな隙を見つければ躊躇なくシュートを放ち、スピードと強い身体を生かしてゴール下に切り込むと見事なボディコントロールでディフェンスを振り切る。長いリーチから繰り出すブロックショットやスティールも含め、その魅力をひと言で表すとすれば『途切れることのない躍動感』だろうか。勝負どころで彼がボールを持った瞬間、「来るぞ、来るぞ」「やるぞ、やるぞ」と湧き上がるワクワク感はシーズンを通して見る者を存分に楽しませてくれた。
月間MVPに選ばれること実に3回。レギュラーシーズンに達成した10回のトリプルダブルはB1歴代トップであり、なんと、CSクォーターファイナルでは3戦全てでトリプルダブルを達成した。「ビュフォード、異次元!」「ぺリン、もはや化け物!」SNSで誰かが叫んだ声に同意したファンは多かったにちがいない。
だからこそ、というか、それだけに、というか、倒れ込んだまま動けなかった最後の場面が何度もよみがえる。ジャーニーマンと呼ばれた男が島根に腰を据え、迎えた3度目のシーズン。横たわった体から伝わる悔しさ、無念さはビュフォードが目指した優勝への “本気度” を表していたような気がする。
今回のMVP選考においては、他に河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)、原修太(千葉ジェッツ)などの名前も挙がったが、『なるべく多くの選手を称えたいので部門を超えてのダブル授与はしない』というBBS AWARDのすばらしい規約に則り、ぺリン・ビュフォードへの授与が決定した。残したスタッツ、与えたインパクトの大きさからも異論なし。『化け物』の呼び名にも敬意を込めてこの賞を贈りたい。
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。