例年シーズンを通して最も成長(Improved)を感じた選手、あるいは最も印象(Impressive)に残った選手を対象に選考が行われてきたMIP賞であるが、今年はMIP候補に挙がった岡田侑大、熊谷航、前田怜緒の3人を擁し、同時にチームとしての成長が感じられた信州ブレイブウォリアーズに授与することが決まった。
信州がB1に昇格したのは前シーズン(2020-21)のこと。20勝34敗(西地区7位)という結果は目指していたものからは遠かったかもしれないが、B2から昇格したチームの成績としては歴代最高勝率であり、「初めてのB1の舞台で健闘した」と捉えることもできる。中でも20チーム中2位に付けた平均失点は評価されるものであり、2018-19シーズンに指揮官に就任して以来、勝久マイケルHCが強化してきたディフェンスの成果が見えたと言っていいだろう。しかし、一方で課題として残ったのはリーグ最下位となった得点力だ。その課題に取り組む信州にとって先述した伸び盛りの3選手の加入は大きなプラス材料として期待されたはず。そして、『信州の三銃士』と呼ばれた3人はその期待に全力で応えた。
拓殖大を中退してシーホース三河でプロ選手のスタートを切った岡田は得意とする3ポイントシュートだけではなくオフェンスの起点になるハンドラーとしての才能を示した。富山に移籍した2020-21シーズンにはBリーグアワードのNEXT STAR賞トップ5に選出され、信州に移籍した今シーズンは日本代表メンバーとしてワールドカップアジア予選の舞台も経験、ケガで戦列を離れた試合もあったが、平均13.8得点をマーク。3月9日のレバンガ北海道戦で見せた7本の3ポイントを含む34得点の活躍は『信州の新エース』の呼び名にふさわしいものだったと言えるだろう。
その岡田と三河でチームメイトだった熊谷は新人時代からメインガードを任される機会も多く、若手らしからぬ落ち着きと、一方で果敢にゴールを狙う積極性が光った。2019-20シーズンのBリーグアワードで新人ベスト5に選出され、今シーズンは岡田と同様に日本代表候補にも名を連ねた。今シーズンは45試合にスタメン出場。平均2.9から10.0に伸ばした得点力もさることながら、ランキング9位に付けたアシストパス(4.4本)が示すとおり『味方を生かす』プレーでもしっかりチームを牽引する働きを見せた。
岡田、熊谷に劣らず活躍の場を広げたのは滋賀レイクスターズから移籍加入した前田だ。もともとアグレッシブなプレーには定評があったが、平均4.8から8.9に伸ばした得点だけではなく、191cmのサイズを生かしたタフなディフェンスでも大きく貢献。シーズンを通してチームを勢いづけるキーマンとなった。初の日本代表候補入りに思わずうなずいたファンは多かったに違いない。
28勝26敗と勝率5割越えを果たし、西地区5位に浮上した信州の “前進” はもちろんこの3人の活躍によるものだけではない。が、その前進の陰に成長する3人の姿があったのは確か。言い換えれば今シーズンの信州は若い力を押し上げる土壌を持ったチームであり、ゆえにチームとして前進できたシーズンになったのではなかろうか。
シーズン前を振り返れば、有力選手の加入で話題を呼んだチームは他にもある。強い印象を残したという意味では西地区2位からチャンピオンシップセミファイナル進出まで走り抜いた島根スサノオマジックに及ばないかもしれない。だが、BBSアワード選考委員会は信州の着実な前進を評価した。そして、今回のMIP授与には「次なる一歩を見てみたい」という来シーズンへの期待が込められていることを追記しておきたい。
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。