1月1日~11日まで開催された全日本総合バスケットボール選手権大会(オールジャパン)はJX-ENEOSサンフラワーズ(3年連続20回目)とアイシンシーホース三河(5年ぶり9回目)の優勝で幕を閉じた。
スタートから終始主導権を握り、デンソーアイリスに付け入る隙を与えなかったJX-ENEOS、各々が自分の役割を全うして粘るリンク栃木ブレックスを振り切ったアイシン三河。決勝戦の戦いぶりはそれぞれ見事だったと言えるだろう。
大会を振り返ると、女子ではシャンソン化粧品Vマジックがトヨタ自動車アンテロープに逆転勝利した準々決勝、男子ではリンク栃木に二桁リードを奪われた広島ドラゴンフライズが、後半あと一歩まで迫った準々決勝、延長戦にもつれ込んだアイシン三河とトヨタ自動車アルバルクの準決勝が印象に残る。
また、大会前半では、大学チームを相手に1回戦突破を果たした明成、桜花学園、同じく大学チームから続けて2勝を挙げた岐阜女子など高校勢の健闘が光った。
そんななか、もっとも心に残った試合として挙げたいのは、男子3回戦の日立サンロッカーズ東京―東海大学だ。結果だけ見れば88-75の13点差。これを東海大の『善戦』と呼ぶならば、それは『おおいなる善戦』。カテゴリーを越えたオールジャパンだからこそ味わえた心躍る挑戦劇だった。
掲げた目標はあくまでも「優勝」
2004年に関東大学1部リーグに昇格して以来、東海大は常にリーグ上位校として大学バスケット界を牽引してきた。毎年掲げる目標は『インカレ優勝とオールジャパン優勝』―これを聞いて「インカレ優勝はわかるが、オールジャパンの優勝は無理な目標では…」と首をかしげるバスケットファンも少なくないだろう。せめてベスト4ぐらいが妥当な目標設定ではないかと。
しかし、チームの目標はあくまでもオールジャパン優勝。「挑戦しなければ何も成し遂げられない」と語る陸川章監督の目は真剣だ。その志を持って挑んだ2006年のオールジャパンでは堂々3位に入賞。このときは外国籍選手不参加の大会であったものの、竹内譲次(現日立サンロッカーズ東京)、石崎巧(現三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋)など、いわゆるゴールデン世代の有力選手を擁した強力な布陣で、対戦したトヨタ自動車(この大会で優勝)と前半を互角に渡り合った。また、2010年(外国籍選手も参加)の大会では勝利こそ叶わなかったが、リンク栃木ブレックスと延長戦にもつれ込む激戦を演じている。カテゴリーを越えて“格上のチーム”と戦うオールジャパンは、東海大にとって「胸を借りる場所ではなく、挑戦する場所」なのだ。
とはいうものの、今季のチームはオールジャパンに向けての気持ちの切り替えに少々時間がかかった。春のトーナメントと秋のリーグ戦を制し、満を持して臨んだインカレで2位に終わったショックがあまりに大きかったからだ。
「すごく落ち込んで、立ち直るのに1週間以上かかりました」(ベンドラメ礼生)
「しばらくは何をする気も起らなかった。気持ちの切り替えが本当に難しかったです」(小島元基)
しかし、オールジャパンまでの1ヶ月間にチームのモチベーションを上げるためには練習に集中するしかない。それまで以上にハードな練習の中から自分たちのもう1つの目標を思い出し、インカレの悔しさを払拭するためにも「もう1回てっぺんを目指そう」という気力を取り戻していった。
本気で勝ちに行く姿勢
1回戦のRBC東京に87-47と大差で勝利した後、2回戦では京都産業大学を102-59で一蹴。そして、いよいよNBLの強豪・日立東京と顔を合わせる3回戦を迎えた。
竹内譲次(207cm)、ジョシュ・ハイトベルト(211cm)を筆頭に高さでは絶対的なアドバンテージを持つ日立東京を相手に、東海大は序盤から持ち前のディフェンスで勝負に出る。前線から激しいプレッシャーをかけ日立東京のリズムを狂わせると、橋本晃佑、佐藤卓磨の3P、さらにはゴール下にするりと回り込んだ伊藤達哉のスクープショットなどで得点を重ね1Qを26-21とリード。第2Qに入ってもその勢いは変わらず、残り5分53秒に伊藤がスティールから速攻を決めて35-28とすると、たまらず先にタイムアウトを取ったのは日立東京の方だった。さらに残り2分59秒には再びスティールからの速攻で42-33とし、日立東京は2回目のタイムアウトを請求。ここまでは確実に流れは東海大のものだった。
しかし、そのタイムアウト明けから高さに勝る日立の反撃が始まる。ゴール下のハイトベルトにボールを集めると45-44の1点差まで詰め寄って前半を終了。第3Qも立ち上がりから徹底してインサイドを攻め、わずか2分で47-57と逆に二桁リードを奪った。
地力の差を考えれば、このままズルズル点差が開く展開も予想されただろう。だが、ここからが東海大の真の見せ場だった。55-69と14点ビハインドで始まった第4Q、3P、ドライブと果敢に攻めるベンドラメの活躍で、残り7分56秒で63-70と追い上げる。会場が大きく沸いたのは173cmの伊藤がマッチアップした196cmのケビン・マーフィーからテイクチャージを奪ったときだ。一見すると子どもと大人ほどの体格差がありながら、鍛えられた脚力にものを言わせ、一歩も退かない伊藤のディフェンスはこの日の東海大を象徴しているかのようにも見えた。
その後、残り1分23秒には69-85と再び点差が開くが、東海大のディフェンスの足は止まらず、攻めては橋本、小島の3Pで『残り1秒まで戦い抜く』姿勢を貫いた。試合終了のブザーとともに会場を満たしたのは健闘を称える大きな拍手、上気した顔で立ち上がり、手を叩き続ける観客の姿があったことも忘れ難い。
日立東京は2人の日本代表選手と3人の外国籍選手、さらに帰化選手1人を擁するNBLトップクラスのチームだ。
「日立は当然インサイドを突いてくるというのはわかっていたので、インサイドにボールが入った瞬間ダブルチームに行ってゾーンに切り替える。我々はこれを‟ロック„と呼んでいて、中にボールが入ったらすぐにロックする戦術に出ました。これは今回かなり有効だったと思います。ただし、そのあとのリバウンドではやはり苦しんだ。取れなくても叩いてルーズボールを頑張ったんですが…」(陸川監督)
リバウンド数は日立東京の57に対し東海大は29。オフェンスリバウンドでは29-5の差がついた。
「この絶対不利な状況の中からうちが活路を見い出そうとするなら、やはり身体を張った粘り強いディフェンスと“本気で勝ちに行こう”という強い気持ちしかありませんでした」(陸川監督)
『挑戦しなくては何も成し遂げられない』――試合後、「負けは悔しいけど、全力を出し切りました」と、きっぱり言い切った選手たちの顔はそのどれもが清々しかった。