10月20日の島根スサノオマジック戦は、ギブスの勝負に対する意志を特に強く示した試合でもあった。前日に記念すべきB1昇格後初勝利を挙げたものの、この日は前半から地力の差を見せつけられる形で敗戦。その中で前半無得点ながら後半に10得点を挙げたギブスについて、安齋HCは会見でこんな裏話を明かしている。
「昔からそうなんですけど、今日も出だしが良くなかったことに責任を感じて、ハーフタイムに『後半は俺がやる』って言ってきたんですよ。僕としては長い付き合いで『もうそんなことわかってるから』って思うんですけど、ジェフはあの年齢になっても自分がチームのためにプレーできてるかどうかということをすごく気にする。他の選手に対して『もっと頑張れよ』って思ってもおかしくない状況なのに、自分にベクトルを向けて、後半は最初からガンガンアタックしてくれた。若い選手がそれを学んでいけるかどうかだと思います」
その後、3月29日のレバンガ北海道戦の際も、安齋HCは「この間の試合も、夜にわざわざ『申し訳ない。ああいうオフェンスはもう絶対にやらない』ってメールをくれた。今シーズンで引退する選手が自分のプレーに納得いかなくて、自分の意思をコーチに伝えてどうしても信頼を勝ち得ようとするのは本当にすごい」と同様のエピソードを披露し、「ジェフに任せて負けるなら、もうそれでもいい」とまで言いきった。この北海道戦、ギブスは21得点で勝利に貢献。その最大の原動力は勝利への渇望であり、それ故に「『初めてのB1でよくやってる』と言われることもあるけど、僕はそう思わない。勝ってないんだから」とひたすら勝利を追求する安齋HCも全幅の信頼を置いてきたのだ。
もう一つ触れたいのは、シーズン終盤の緊急帰国だ。4月12日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦に出場した後、家族の事情で遠征先から急遽機上の人となったのだが、同19日のホーム仙台89ERS戦の前日に再来日。「出るかどうかはコーチに任せるけど、準備はできてる」と告げられた安齋HCは、故障者を多く抱えるチーム事情も考慮してギブスをコートに送り込んだ。試合は勝利し、ギブスは19分26秒出場で12得点を挙げている。どのような状況であれ、ギブスはチームのために全力を尽くす男だった。
「15年間、出場した試合は全てを出しきりました。常に優勝を目指して、本当に充実した15年でした」(ギブス)
トヨタ自動車と宇都宮で日本一に輝き、長崎ヴェルカではB3優勝やB1最速昇格に大きく貢献。一時代を築き、激動期を迎えた日本バスケット界の発展にも寄与した男は、最後まで大きなインパクトを残したままユニフォームを脱いだ。功労賞を受賞したB.LEAGUE AWARD SHOWに寄せたビデオメッセージでは「99.999%引退です」と発言。100%と断言しなかったのは、まだ第一線でプレーできるという自信の裏返しなのかもしれないが、その本心は我々には知る由もない。今はただ、バスケットボール以上に大切な家族との時間が増えることが喜ばしい。不世出のヒーローに今最もかけるべき言葉は「引退おめでとう」の一言だ。
文・写真 吉川哲彦