文・泉 誠一 写真・吉田 宗彦
昨年末、Bリーグより発表されたチャンピオンシップのフォーマットには、「準々決勝および準決勝が1勝1敗となった場合、5分前後半の3試合目を当日実施する(特別ルールを設定)それでも勝敗が決定しない場合は1回5分の延長時限を勝敗が決まるまで行う」と書かれていた。
3戦2先勝方式だが40分×3試合ではなく、第3戦は通常のバスケルールとは異なる5分ハーフ(計10分)の決定戦を採用。ちなみにファイナルは一発勝負となり、いずれもbjリーグのルールが遺産として残る。実施されるかどうかわからない3日分の会場確保をリスクと感じ、運営側の都合で誕生したはずのこの「5分ハーフ」の特別ルール。それに対し、NBLは3戦目を行わなかった場合、リーグ側がその会場費等を肩代わりして成立させてきた。
お客様となるファンの心境になって、このフォーマットを考えてみよう。
昨年度、チケット観戦していた筆者から言わせてもらえば、すべてが決まる2日目だけ行けば良いのでお財布に優しい。メディアの立場であっても、2日目だけ取材に行けば結果が出るので効率が良い。
実際、今シーズンのbjリーグのプレイオフ ファーストラウンド〜カンファレンスセミファイナルでは、1試合を除いて2日目の方が確実に観客動員数は増えていた。平均して513人増、増加率は124%。
2日で決まるこのフォーマットはファンのためであり、メディア露出が期待される素晴らしいルールと考えることもできる。
今シーズンのbjリーグ プレイオフでは、幸いにして第3戦は行われなかった。過去11シーズンを振り返れば、勝っても負けてもそのルールに対する疑問が、選手自身からSNSでつぶやかれてきた。ネガティブなコメントは1つでも蔓延してしまうのがネット社会である。bjリーグで採用されてきた5分ハーフの第3戦に対して、何も不満がなければあえて発言することはない。つまり、大多数の選手たちが受け入れており、やはり問題のないルールなのだろう。
5分ハーフの第3戦に対する選手たちの印象
プレイヤーズ・ファーストを掲げるBリーグなのだから、選手の声を聞くことが先決であろう。全員に是非を問うことはできないが、bjリーグ取材時の合間をぬって数名の選手に“5分ハーフの第3戦”に対する印象を聞いてみた(所属は取材時)。
「あのルール自体は変わってるとは思いますが、これまでそのルールで戦っているので、来シーズンはNBLの選手たちよりも慣れている分、そこは有利になるかもしれません。何が起こるかわからない楽しみがあり、レギュラーシーズンの集大成があの10分間に出るので、僕は好きです」
異を唱えない多くのbjリーガーを代弁するように、京都ハンナリーズの村上 直選手は肯定派であった。
NBLから京都へ移籍して来た内海 慎吾選手も理解を示している。
「何が起こるかわからないという意味では、レギュラーシーズンは本当に関係ないという感じです。プレイオフには本当に良いチーム、良いバスケットをしたチームが勝ち上がって行くんだと感じました。短時間で決まってしまう戦い方を、昨シーズン(NBLから移籍して来たばかり)の僕は知りませんでした。その意味では、5分ハーフでの戦い方をもっと勉強しなければならないといけないと思っています。2戦目から3戦目へ行く間のリカバリーやモチベーションもそうですが、プレイオフが始まった時から常に第3戦を頭に入れながら今シーズンのプレイオフは戦っています」
富山グラウジーズの水戸 健史選手は決定に従いながらも、ルールが変わるならば40分間のフルゲームに期待するコメント。
「ルールはルールなので仕方ない。文句を言うのは負け惜しみでしかないので、選手にとっては決まったことをやるだけ。でも、もしルールとして40分間戦えることができるのであれば、それの方がベストだとは思います」
bjリーグ11シーズンを全うしたライジング福岡の青木康平は、常に苦言を呈してきた。「これだけは正直書いてもらいたい」と釘をさされたコメントは以下のとおり。
「最悪ですね、やっぱり──。絶対にこのルールを採用するべきではないし、この5分ハーフで2度戦って2度負けてます。でも、負けたから言ってるのではなく、レギュラーシーズン52試合×40分間を戦いながらチームとして積み重ねてきたのに、10分間で決まってしまうのは、(レギュラーシーズンは)一体何だったかのかと思わされるのがこのルール。負けた時の落ち込みようは尋常ではないし、これがプロリーグの在り方かといえば、絶対にあり得ないと思います。来シーズンはこのルールを踏襲したとしても、その次のシーズンは絶対に止めてもらいたいですね。絶対に」
秋田ノーザンハピネッツの田口 成浩選手は、「正直言って、NBLの選手たちに申し訳ない気持ちでいます」と恐縮しながら持論を述べた。
「あの10分はイヤです。ルールはルールなんで文句を言ってもしょうがないですが、それでもあのルールが良いと思っている選手は誰一人いないと思います。今でも変えてもらいたいですし、(40分間で決着をつける)NBL方式がうらやましかったです」
三遠ネオフェニックスのやさしきビッグマン、太田 敦也選手も反対派。
「正直言って、あのルールはレギュラーシーズンが何だったんだという話になります。Bリーグは60試合になり、今よりもっとレギュラーシーズンが長くなるのに、5分ハーフで決着が決まってしまうのはあり得ない。それであればファイナルのように全てを一発勝負にした方が、40分で決着をつけるので問題ないと思います」
ファイナル5戦を戦い終えたNBL選手たちの声
今シーズンのbjリーグ、NBLを通じて、ファイナルを除くプレイオフ第3戦までもつれたのは、リンク栃木ブレックス vs 東芝ブレイブサンダース神奈川のみであった。月曜日にも関わらずブレックスアリーナは2,508人を集めた観客たちを、選手たちは最高のパフォーマンスで感動させる。もし、5分ハーフの10分間であれば、20-10でホームのリンク栃木がダブルスコアで敗れ、盛り上がることなく終わっていた。40分間戦い抜いたからこそ、さまざまな起伏があり、リンク栃木が巻き返し、東芝神奈川が逃げる最高のドラマが生まれたと言えよう。
3勝2敗と最終戦までもつれ込んだNBLファイナルは、白熱した試合が続いた。もし、来シーズンであれば初戦を獲ったアイシンシーホース三河がそのまま優勝となり、一戦必勝で疲れ知らずのまま終えられる。しかし敗れたシーホース三河のベテラン、柏木 真介選手は「5試合ある方が良い」とタフな道を選択。
「せっかく長いシーズンを戦って来ているのに、それが一発勝負で終わるのは正直言ってどうなのかな、という気持ちはあります。でも、決定事項なので来シーズンはその中で勝って行かなければならない。初めての経験になるが対応していけるようにしていきたいです」
優勝した東芝神奈川(川崎ブレイブサンダース)の辻 直人選手もNBL方式の方を推奨するとともに、セミファイナル3戦、ファイナル5戦を戦い抜いたことで得たものも大きかったと言う。
「確かに一発に懸ける思いというのも大きいと思うし、緊張感も今の方式よりも大きいとは思うが、やっていて1戦で終わるのはちょっと物足りないという部分は正直言ってあります。見ている方にとっても一発勝負の楽しさもあるとは思いますが、やっぱりこういう第5戦までもつれる中で、いろんな予想をすることもファンにとってはすごく楽しいことなのではないかなと思います。プレイオフを通じて僕らは試合数が多かったので、僕だけではなく長谷川(技)や藤井(祐眞)、山下(泰弘)さんらもすごく経験値が上がりました。それを戦い抜き、こうやって勝てたことで自信にもつながっています。レギュラーシーズンでは味わうことができない緊張感の中で試合をこなすというのはすごく良い経験になるし、選手たちにとって成長につながっています」
決まってしまったルールは致し方ない。しかし、少ない選手の声を聞いただけではあるが、本当に納得しているのかどうかあらためて疑問に感じた。事実、来シーズンこの5分ハーフが採用されることを知らず、驚く選手もいた。
NBLラストシーズン、白熱したプレイオフを連日目の当たりにし、今なお興奮が冷めやらない。振り返れば、FIBAルールと違うと咎められ黒船が乗り込んで来た過去があり、10分間で雌雄を決する第3戦は大丈夫なのかという不安もある。今からでも遅くはない。もう一度、ファンや選手の声を聞きながら考え直すことも必要ではないだろうか。