辻に代わった藤井もまた「あわてることはなかった」と振り返る。「ただ僕は辻さんのようには得点できないので、それならばとにかくディフェンスを頑張ろうと決めていました」
マッチアップしたのは比江島。「比江島さんは1対1をやらせたら日本でトップ、アジアでもトップレベルの選手なのでこっちも必死です。『自分は守れる』と自分に言い聞かせて、というか、自信を持たないと止められないので、そういう気持ちでプレーしました」
そのディフェンスだけではなく、球際のハッスルプレー、要所要所のアウトサイドシュートなど「自分の持ち味は出せたと思います。最初は控えで出る難しさも感じていましたが、ミスしないようにミスしないようにと思うとプレーが消極的になって、いい結果が出せないことも実感したし、いろんな意味で学ぶことが多かったです。この大舞台で学べたことが自分の成長につながるような気がしています」
◆地味なプレーで光を放つ #33長谷川技
このシリーズの全試合にスターティングメンバーとして出場した長谷川技もこれまではベンチメンバーの1人だった。4年前のルーキーシーズンはケガからのスタート、それ以後も度重なるケガに泣かされ、昨季はひたすらリハビリに精を出す日々が続いた。
「東芝に入ってから万全な状態で過ごしたシーズンは1度もありません。やっと…という感じですね。今シーズン、やっとまともにコートに立つことができました」(長谷川)
チームの主力である“ミスターディフェンスマン”の栗原貴宏のケガもあり、12月13日の広島ドラゴンフライズ戦からスタートに起用された。復帰した栗原とプレータイムを分けながら戦ったファイナルでは5試合平均25分近くコートに出て、アイシン三河のエース金丸晃輔封じを任された。
「ベンチに栗原さんがいてくれることは心強かったし、もう自分はできることを精一杯やるだけでした。とにかく金丸さんにボールを持たせないこと。それはまあまあできたのではないかと思っています」(長谷川)
本人は「まああまできた」と控え目だが、これに対し金丸は「東芝は2人(長谷川と栗原)ともファウル覚悟でコンタクトしてきて、僕の体力を削る作戦だったと思います。ああいう守られ方はレギュラーシーズンではあまり経験しなかったし、体力だけでなくメンタルも削られるような感じでした」と苦渋の表情を浮かべた。ボールを持たせてもらえないことで、シュートの感覚も鈍り、ストレスだけが溜まっていく。その結果、第5戦こそ終盤の連続3Pが効いて15得点を稼いだものの、あとは第1戦10得点、第2戦9得点、第3戦4得点、第4戦5得点と、本来の力を出し切れないまま終わった。
「全力を尽くしたことがある程度チームの役に立ったことは素直に嬉しいです」と、長谷川。「自分は地味なことをコツコツやっているだけだし、地味でいいんです。でも、その地味なプレーに少しだけ注目してくれる人がいたら、それはそれでちょっと嬉しい(笑)」
長い長いトンネルを抜けた先にあったリーグ優勝。「1年以上続いたリハビリ生活は辛かったですけど頑張ってきてよかった。腐らず頑張ってきて本当によかったです」
勝利の紙吹雪が舞う中で長谷川の笑顔が弾ける。その肩を次々と抱いたのはずっと自分の“帰り”を待っていてくれた仲間たちだった。
文・松原 貴実 写真・吉田 宗彦