ラストとなるNBLファイナル、第1戦を逆転で勝ち取り、続く第2戦も終始リードを保って快勝したアイシンシーホース三河の戦いぶりに「スイープで決まりそうな強さ」を感じたバスケットファンは多かったのではないだろうか。
しかし、明けて迎えた第3戦で東芝ブレイブサンダース神奈川は甦る。「思えば、自分でもゾーンに入ったかなと感じる時間帯があった」という辻直人の連続シュートを中心に88‐73で勝利。崖っぷちで踏みとどまったチームは1週間後の第4戦、翌第5戦にも勝利し、2連敗からの3連勝でNBL最後の王者に輝いた。
エースである辻、そして、連日安定した力を発揮した大黒柱ニック・ファジーカス、今回の優勝は彼らの存在があったからこそ。それは異論を挿む余地がない事実だ。だが、それと同時に改めてこのシリーズを振り返ると、奮闘する何人もの選手たちの姿が浮かんでくる。篠山竜青はキャプテンとして悩むこともあったが、「周りの人たちに支えられた。苦しみながらも全員の気持ちが1つになれたからこそ勝ち取れた優勝だと思う」と語り、2人のエースは「アイシンは個々の力がある強敵だったが、そのアイシンをうちはチーム力で破ることができた」(辻)、「うちは1度もあきらめなかった。1人ひとりがワンプレー、ワンプレーに集中して戦い抜いたと思う」(ファジーカス)と胸を張った。3人のことばに共通していたのは『チーム力』と『全員の力』――優勝記者会見の席で勝因を聞かれた北卓也ヘッドコーチもまた、その要因の1つに『豊富な控え選手の存在』を挙げた。
「控え選手が(アイシンより)うちの方が豊富であり、それぞれが自分の役割をしっかり担い、見えないところのプレーで貢献してくれました。たとえばアイシンは本当にインサイドが強いので、ボックスアウトなどもコツコツやることが大事。そういったところも(コートに出た)メンバーたちが実によく頑張ってくれました。まさにチーム力の勝利だったと思います」
◆38歳の献身 #25ジェフ磨々道
2連敗を喫し後がない状態で迎えた第3戦では3P 7/11を含め30得点をマークした辻に注目が集まったが、その陰でチームを支えたのはジェフ磨々道の献身的なプレーだ。アイザック・バッツ(208cm)、ギャビン・エドワーズ(206cm)を揃えたアイシン三河の強力なインサイドに割って入り、文字通り身体を張ってゴール下を死守した。
チーム最年長の38歳。年齢による衰えは「間違いなくあるよ」と笑う。「だから、水分を摂ったり、マッサージを受けたり、栄養をつけて、夜は早く寝る。連戦の疲れを取るために8時半には寝てるよ」――インタビューに答える顔は終始飄々としているが、実はだれよりも熱いマインドを持つ。2連敗後、チームに重い空気が漂う中「選手で行ったミーティングで、あきらめるな! と僕らを鼓舞してくれたのはマドゥとニックだった」(篠山)
2勝2敗の5分に持ち込んだ第4戦の後、磨々道の語ったことばには、チームに対する彼の思い、優勝に懸ける静かな闘志が表れていたように思う。
「アイシンはすごくいいチームでインサイドも強い。でも、私は恐れてはいない。たとえば辻は私のためにプレーする。私は辻のためにプレーする。チームはだれかがだれかのためにプレーする。東芝はそういうチーム。だから私も自分のやるべきことをやるだけ。明日もそれだけを思ってプレーするよ」
◆仕事に徹したベンチメンバー #5山下泰弘 #0藤井祐眞
ベンチメンバーの踏ん張りという意味では、山下泰弘、藤井祐眞の貢献も光った。今シーズン場面によって1番、2番を任された山下は「難しさも感じましたが、どういう形で出てもいい流れを作れるように常に準備はしていました」と言う。しかし、今シーズンはセカンドチームが思うように機能しないことも多く、責任を感じることも少なくなかった。
「このシリーズでも1、2戦では僕たちセカンドチームが出た時間帯に得点が止まり、ディフェンス面でも今一つ自分たちの仕事ができなかった。それだけに3戦目からは開き直って頑張ろうという思いが強かったです。まずはディフェンスからリズムが作ろうと。それはできたかなと思っています」
もともと確率の高いアウトサイドシュートには定評があり、自身も「自信を持っています」と言い切る。第4戦、第1P終了間際の比江島慎の3Pで25-21と詰め寄られたが、第2Pコートに出た山下は思い切りのいいジャンプシュートで再び流れを呼び戻した。この試合、エースの辻が開始2分で2つ目のファウルを犯しベンチに下がったが、「そういうときのために僕たちがいるわけで、あわてることはありませんでした」(山下)