文・松原 貴実 写真・安井 麻実
カウントダウンが始まったNBLレギュラーシーズン、トップを走るトヨタ自動車アルバルク東京の中で、着実に存在感を示してきたのがザック・バランスキーだ。ケガをしたマイケル・パーカーに代わりスターティングメンバーに起用されたのは3月19日のアイシンシーホース三河戦から。この日は69-87で敗れ、翌日も64-84の完敗となったが、試合を振り返るバランスキーの顔に暗さはなかった。
「スタメンということで緊張することはあまりなくて、どちらかというと楽しみの方が大きかったです。思い切っていこうと決めていたし、それだけはできたような気がします」
ただし、スタメンを任された責任は感じている。
「1戦目はシュートはまぁまぁ入っていたんですが、ディフェンスでは簡単に(桜木)ジェイアールにやられてしまったし、リバウンドも取れなかったし、自分のせいで点差が開いて敗れたと思っています」
そのディフェンス面を修正した2戦目は「自分的には(1戦目より)少しよくなったかなぁと。ジェイアールは日本のビッグマンの中でも1番巧くて、賢い選手だからマッチアップしていてもすごくやりがいがあります。ほんとに自分はまだまだですが、昨日より今日の方が少し手応えを感じられたのはよかったし、そういうことを大事にして次はもっと活躍できるよう頑張りたいです」
翌週の3月26日、27日の対戦相手は広島ドラゴンフライズ。この2戦目にバランスキーはそれまで最長の29分というプレータイムを得て、14得点、6リバウンドの活躍を見せた。2連勝して波に乗ったチームは、31日の三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋戦にも勝利。だが、後から聞いた話によると、驚いたことにバランスキーはこの三菱名古屋戦の2日前から急性胃腸炎に苦しみ、食べ物がほとんどのどを通らない状態だったらしい。
「火曜日(29日)は朝起きてから吐き気が止まらなくて、なんとか頑張って口にしたのはポカリスエットとカロリーメイトを2本だけ。次の日もまだ吐き気があり、あまり食べられませんでした」
しかし、翌日(31日)の試合にはいつもどおりスタメンとして登場。21分コートに立つと渾身のブロックショットも披露した。
「正直、ちょっとフラフラでしたけど、気力で頑張りました(笑)。マイク(マイケル・パーカー)はまだ出られない状態だったので、自分がやらなければという気持ちがあったし、(スタメンとして)せっかくもらったチャンスを無駄にしたくなかったですから」
『もらったチャンスを無駄にしたくない』――同じことばをバランスキーの口から聞いたのはいつだったか。あれはたしか彼が東海大に入って間もない新人戦の試合後だったと思う。
6人兄弟の末っ子として栃木県で生まれたこと。4歳~10歳まではアメリカで育ち、その後、牧師である父とともに再び日本に移り住んだこと。小学6年生から始めたバスケットが楽しくてすぐ夢中になったこと。生い立ちを語る彼のことばの中に、強く印象に残る一言があった。
「自分はバスケットでチャンスをもらったと思っています」
家庭の事情で高校進学をあきらめようと考えていたとき、東海大付属三高校から「うちでバスケットをしないか」という話をもらった。両親も応援してくれ、3年間またバスケットを続けることができた。そして、今度はそれが東海大学進学の道を拓いてくれた。
「自分はバスケットでチャンスをもらったと思っています。だから、そのチャンスに感謝して、絶対無駄にしないよう頑張りたいです」
有力選手が揃った東海大の中で1年次からレギュラー入りを果たし、2年次には主力の1人として6年ぶりのインカレ優勝に貢献。3年次にはインカレ連覇。ゴール下を死守する“守護神”の役割はもちろん、身体を張ったディフェンス、ルーズボールで常にチームを鼓舞する姿を指して、陸川章監督は「ザックは1人で3人分の仕事をしてくれる選手」と評した。まさにもらったチャンスに応え、大きく成長した4年間だったと言えるだろう。
しかし、プロの世界は甘くはない。アーリーエントリーで入団したトヨタ東京では、ルーキーシーズンを迎えてもなかなか出番は回ってこなかった。
「使ってもらえるのは勝負が決まった後の数分とかで、やっぱり少しだけ心が折れそうになったこともありました。でも、うちには正中(岳城)さんや二ノ宮(康平)さんみたいなすばらしい先輩がいます。2人とも(試合での)出番は少ないけど、練習はものすごくハードに頑張る。1番頑張って常に準備をしている。そういう尊敬できる先輩たちが近くにいてくれたおかげで、自分ももっと頑張らなきゃという気持ちを持ち続けることができました」
そして、レギュラーシーズン終盤にようやく巡ってきたチャンス。「準備はしてきたから、あとは全力を出し切るだけ」という思いがバランスキーを一戦ごとに逞しく成長させた。
4月2日のアイシン三河戦に2点差で勝利して借りを返すと、翌週の熊本ヴォルターズ戦に2連勝。4月16日の千葉ジェッツ戦から復帰したパーカーが再びスタメンとなったが、バランスキーはこの2連戦、さらに続く日立サンロッカーズ東京との2連戦もシックスマンとしてきっちり仕事をこなした。
バランスキーについて語る伊藤拓摩ヘッドコーチの口元が思わずほころぶ。
「貢献してくれてますねぇ。というか、彼はこれまで試合に出ていない時期もずっとチームに貢献してくれていました。とにかく練習はハードだし、バスケットIQもルーキーとは思えないほど高い。人柄も申し分なく、常に謙虚にバスケットに取り組んでいます。だからこそチームが必要としたときに、ステップアップして活躍できるのだと思います」
伊藤ヘッドコーチのことばから伝わってきたのは『信頼』。バランスキーはスタメンというチャンスを活かし、自身が“新たな戦力”であることを証明してみせた。タフな戦いが続くであろうプレーオフを見据えたとき、バランスキーの台頭はチームにとって大きなプラス材料になるはずだ。
「スタートから使ってもらったことで、今まで以上に積極的に迷わずプレーできるようになりました。自分の身長(193cm)でゴール下で張り合うためにはもっと身体を大きくしなければならないと思いますが、とにかく今は気持ちでは負けないようにコートに出たら身体を張って頑張ります。その準備はできています」
チャンスに感謝して、チャンスを無駄にしない――ザック・バランスキーが挑むNBLプレーオフは5月13日からスタートする。
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