Text by Hiroyuki Ohashi / Photo by Tomoko Osawa ©B-CORSAIRS/bj-league
最後の王者を決める熾烈なプレイオフ(以下PO)に突入したTKbjリーグ。聖地・有明コロシアムを目指して、各チームはブースターとともに凌ぎを削っている。今週末、5月7日~8日は、聖地への出場権をかけたカンファレンスセミファイナルが行われる。
すでに全24チーム中、8チームが戦いを終えたわけであるが、その中で歴代の優勝チームの中で唯一POへ進めなかったチームがある。2012-2013シーズンの覇者、横浜ビー・コルセアーズ(以下横浜)だ。レジー・ゲーリーHC(現:三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋)の下、リーグ屈指の守備力を武器に参入2季目で一気に頂点まで駆け上がった。その後、2シーズン連続でPOに届かず、ラストイヤーに復活をかけたものの、後半戦から失速し19勝33敗で10位……プライドを持って戦ったが目標に及ばなかった横浜の今シーズンを振り返りたい。
■「試練のシーズンだった」大きく失速した後半戦
4月23日(土)、リーグ最終戦後の記者会見で青木勇人HCが開口一番、口にした言葉だ。そして「3年連続プレイオフにいけない状況で、私も1年目の(ヘッド)コーチで、いろいろと立ち向かいましたが、残念な結果となりました。しかし、この結果を受け止めて、選手たちは最後まで戦ってくれました」と続けた。
参入2季目で選手として優勝を経験し、ACを経て、HCとなった今シーズン、「チームが街の一部、皆様の生活の一部になり、100年後まで語り継がれるよう、今年も荒波の航海が始まります(※1)」と、意気込みと覚悟を持ってチームの舵を取ったが、その言葉通りに大変なものとなった。
前半戦は13勝13敗とPO圏内の6位で折り返すも、2016年に入って、航海は荒波に襲われた。2月に7連敗を喫すると、怪我人も重なって、3月から4月にかけて8連敗。大事な時期にたった3勝(後半戦の合計は6勝20敗)しか挙げられなかった。
スタッツを見ると後半戦は前半戦と比べて、平均得点は3.1点減り(79.2→76.1)、平均失点は3.6点(80.5→84.1)増えた。「新しい選手が2人(#2コーリー・ジョンソン、#21ジョーダン・ヘンリケス)いたなかで、前半戦はスカウディングが無いので良さをうまく活かせたが、後半戦は良さを消されるように(相手が)対策を練ってきた」と指揮官は振り返っている。
特にヘンリケスと#22カール・ホールのインサイドを支える2人は後半戦になって、徹底的にマークされた。下記は前半戦と後半戦の両選手の得点とリバウンドの平均スタッツだ。前半戦は勝ち試合も負け試合もスタッツに大きな違いはないが、後半戦は大きく減少している。ヘンリケスは得点で36%減、リバウンドで37%減、ホールもリバウンドは39%減と持ち味を潰されている。
「インサイドは攻めたかったが、それにプラスしてアウトサイドの安定性が出れば、絶対にもう少し戦える試合があった」(青木HC)とコメントしたが、ペイントエリアで主導権を握れないと、相手の守備は収縮しない。外角のマークは甘くならず、なかなか確率の良いシュートを打つことができない。現に今シーズンは3Pの試投数、成功数ともに昨シーズンを下回った(試投数1092→993:昨年比9%減、成功数362→309:昨年比15%減)。
■「ディフェンスのビーコル」は蘇らず
これは横浜の特徴を表現するものとして、しばしば言われたフレーズだ。参入から3シーズンは1試合平均失点を75点前後に抑える堅守を誇った。リーグ最終戦後、主将の山田謙治へ「厳しかった過去3シーズン、戦いぶりや印象に残った試合があったか」との質問に対して、次のように答えてくれた。
「やりたいことはだいぶできていたと思います。3シーズン(POに)出られていませんが、“ディフェンスでストップしてからメイク”、点数を取るのが、(今シーズンは)少なかったです。(過去の)2シーズンはできていましたが、どうしても故障が響いたこともあり、今シーズンはそれができなかった」。50試合で1試合平均出場時間が30.6分とチームの誰よりも長くコートで戦った男の実感だ。
また、その実感を物語るように、今シーズンはスティールが5.3本と、過去最低を記録。ピーク時で7.1本もあったことを考えると、実に25%も減ったことになる。スティールはあくまでもディフェンスを表現する要素のひとつに過ぎないが、チームで相手のボールを奪う仕掛けどころが統一できず、5人が一体となったディフェンスを構築できなかったことがここから推測できる。
シーズン | 平均失点 | 総スティール | 1試合平均 |
2011-2012 | 72.8 | 369 | 7.1 |
2012-2013 | 74.6 | 371 | 7.1 |
2013-2014 | 76.5 | 331 | 6.4 |
2014-2015 | 82.5 | 338 | 6.5 |
2015-2016 | 82.3 | 278 | 5.3 |
「“何をしないといけないのか”ということをもう少し考えなければと思いますし、それを常に(チームメイトへ)伝えていましたが、正直、最後まで伝え切れなかった部分があります」と、自分の役割が徹底できなかったことに山田は唇をかんだ。
■若手から中堅となった3人の奮闘
しかし、その一方で横浜は若手や中堅選手を積極的に起用した。外国籍選手の出場規定の変更やケガ人が続出した事情もあったが、ベテラン日本人選手や外国籍選手に頼らないチームづくりを懸命に模索した。とりわけ#32前田陽介、#37河野誠司、#73久山智志の3人は、初年度から所属する中堅として大きな期待を寄せられた。長年の課題であった#3蒲谷正之、山田に続く3人目の日本人選手の確立が達成できたかと言えば、それは結果が物語っている。
開幕戦で河野が第4Qにブザービーターで延長に持ち込むビックショットを決め、前田は自己最多タイ16得点(2015年10月17日東京戦)を挙げ、久山は仙台89ers戦(2015年11月29日)でパーフェクトシューティングを達成するなど、守備だけでなく攻撃の幅も広げた。これまで以上にチームやブースターのために、持てる力を最大限発揮してプレーしたのではないだろうか。
もちろん「(選手として)ひと皮むけていない。(3人目の日本人選手に)なりきれなかった」(久山)と結果を重く受け止めているが、「(3人は)自覚が芽生えてきました。自分の良さを5年間で見つけてきたと思いますし、その中でベテラン選手たちに負けないよう常に練習で競い合い、成長が見られました。試合でも以前より“安定”したこともあります。プレイヤーとして、社会人として成長したと思います」と青木HCは彼らの成長に目を細めた。
■次なる大航海へ
さて横浜のbjリーグでの航海は終わるが、来シーズンはB.LEAGE1部という名実ともに国内最高峰の大海原へ再び出発する。今よりもさらに険しい戦いになるだろう。これまでの歴史を創る一翼を担った青木HCは「何を横浜ビー・コルセアーズに残せたと思うか」という問いかけについて、「バスケットボールに関わる人間として、バスケットボールをプレーすることに感謝すること、ブースターの心を動かすような気持ちの入ったプレーを続けること」と答えてくれた。チームの編成は現段階ではまったく未定であるが、この指揮官が残すスピリッツが横浜に息づき、来る荒波に挑む勇敢な選手たちを、ブースターたちは後押ししたいだろう。