2016年4月14日午後10:26、東日本大震災と同等規模の大きな地震が熊本を襲った。東芝ブレイブサンダース神奈川と対戦する熊本ヴォルターズは、熊本を離れていたことで被災は免れた。逆に、家族や友人を残し、そしてホームの益城町が大きな災害を被ったことで選手、スタッフの心労は絶えない。
Text & Photo by Seiichi Izumi
キャプテンの小林 慎太郎選手が、試合前の心境を語ってくれた。
「この体育館に入る直前まで、本当にここでバスケットをすることが正しいのかどうか、全員が悩んでいました。熊本で被災された方も多くいますし、何よりも僕らのホームである益城町が被災しているというのが一番気になっています。もちろん家族も被災していますし、熊本がどういう状況になってるかがわからなかったのでそれが一番気がかりでした」
当然の如く、気持ちを切り替えられるわけがない。試合は75-98、65%もの高確率でシュートを次々と決めた東芝神奈川が勝利した。
「どう言うていいやろうね。今日は選手には何も言えへんし……。複雑な気持ちがあり、来週からのことも心配だし、いろんな思いの中で今日のゲームを行った。仕方ない」と、熊本・清水 良規ヘッドコーチは絞り出すように言葉をつないだ。
2日前も東芝神奈川と70-73と僅差で敗れた試合後、清水ヘッドコーチは「見応えがあって良いゲームでしたね。(中略)金曜日が楽しみです」と、NBLオフィシャルサイトにコメントを残していた。しかし翌日に留守にしているホームが震災に見舞われた。
「熊本に奥さんを一人で残してる選手もいますし、独身の選手も家の中がどうなってるかもわからない。とりあえず帰ってみなければ、次に進むこともできない。いろんな思いの中でゲームをやっていたので、この結果は致し方ないかなぁ」
そう話す清水ヘッドコーチの奥様も熊本におり、余震に怯え、小学校に避難されているそうだ。清水ヘッドコーチも、小林選手も5年前の東日本大震災は、栃木で大きな揺れを体感している。
「あの時はパナソニックが1位2位を争っていた時期だったので、やっぱり最後まで戦いたかったという思いもあった。その時は暫定2位でシーズンが途中で終わってしまった悔しい思いがあります。しかし今回は熊本が被災し、本音を言えばすぐにでも帰りたい」
清水ヘッドコーチは、小声になりながら素直な気持ちを吐露した。
一方、小林選手はトーンを上げる。
「現場で被災した人にしかわかり得ないものがあります。東日本大震災当時、大阪に戻ったら周りのみんなは、平気な顔して『大変だったね』と言われたことが今でも心に残っています。だから今回、熊本が被災したときにみんなは『大丈夫?』と簡単に言うけど、それは違う。そんな軽いことではない。本当に真剣に考えなければいけない」
先週末、ホームゲームを行ったばかりの益城町体育館は避難所となっている報道を見た。しかしその後、天井や照明の一部が落下し、体育館は使えない状況のようだ。そんな中でも、今日の便で熊本から応援に駆けつけてくれたファンの方がいた。
「すごく勇気づけられました。鳥肌が立つほど感動しました。こういう人たちが少しでもいるから、僕らもがんばれます」小林選手は目を見開いて、感謝の気持ちを述べていた。
勝利した東芝神奈川の北 卓也ヘッドコーチは試合後、「昨晩、大きな地震に見舞われ、熊本の選手たちは試合どころの心境ではなかったはずです。それなのにコートに立ってくれたことに、本当に頭が下がります。明日もお互いにハードなプレーを見せ、がんばりますので、ぜひ会場にいらしてください。また、試合後は両チームの選手が揃って、義援金のお願いをします。少しでも良いのでご協力をお願いします」と集まったファンに声をかけ、両チーム総出で義援金募金活動が行われた。
「今日も多くの方が来てくれて、『がんばってください』と声をかけてくれたのは本当に感謝していますし、ありがたい気持ちでいっぱいです。元気をもらいました。今度は僕たちが帰ったら、熊本市民に力を与えていきたいというのが本音です」と清水ヘッドコーチは感謝を伝えていた。4月16日(土)の試合後も募金活動は実施される。
WJBL羽田ヴィッキーズのOGである堀江(迫原)早紀さんの愛息・だいちゃんが難病である拡張型心筋症を患っており、必要な心臓移植のための募金活動「だいちゃんを救う会」。羽田戦から始まった支援の輪は多くのバスケ会場に広がり、この日の東芝神奈川ホームゲームでも募金箱が設置されていた。人助けや有事の時こそ、スポーツが大きな力になると信じている。
小林選手の心境を以下に綴るとともに、募金関連の情報も記載しておく。
──今日の試合はどのような気持ちで入りましたか?
小林:体育館に入る直前まで、本当にここでバスケットをすることが正しいのかどうか、全員が悩んでいました。熊本で被災された方も多くいますし、何よりも僕らのホームである益城町が被災しているというのが一番気になっています。もちろん家族も被災していますし、熊本がどういう状況になってるかがわからなかったのでそれが一番気がかりでした。
チームに影響がなかったと言われたら、少なからずありました。あれだけ良い試合を水曜日にできていたのに、メンタリティーの問題でさらに良いバスケットができなかったのは、僕らの未熟さでもあったかなと反省しています。
──コートに立っていた時、少しは吹っ切れた部分もありましたか?
小林:プレーをするとなったら、やるしかない。僕らはプロフェッショナルなので戦わねばならない。しかし、どこかで集中力が切れ、葛藤する部分があった。今日の試合もみんなが上の空で、激しさが無く、残念だったなぁ。僕がキャプテンとして、みんなにしっかりプレーさせられなかったのも残念ですし……僕が先陣を切って選手たちにプレーさせることが正しいのかどうか、僕自身も葛藤していました。
「おい、しっかりお前らここで戦えよ」という気持ちと、「でも、本当は熊本に帰って困ってる人を手伝うこと、特に僕たちの家族やホームを守るためにがんばることが一番なのではないか」という気持ちがあった。本当に葛藤していました。ここでバスケをしたからといって誰が見るのか? ここに来てるファンは見られるけど、熊本で被災している人たちはインターネットを通じてバスケットを見てるのかどうかもわからない。そんな状況でやるのか、やらないのかというのはすごく葛藤していました。
──今日、熊本から駆けつけたファンもいらしたそうです。
小林:すごく勇気づけられました。鳥肌が立つほど感動しました。こういう人たちが少しでもいるから、僕らもがんばれます。でも、ここに来られた人は希であり、大多数の人は来られず、インターネットやテレビも観られない、携帯を開くのさえもバッテリーがもったいないからできないとか、本当に現場はそういう状況なんです。僕はそれをわかっている以上、プロとは言え、開き直ってバスケットをやります、となるのはなかなか難しかった。タフな状況だった。
──また明日もあり、プレーオフは逃しましたがまだシーズンは残っています。
小林:明日も試合がある以上、今日の二の舞にならないようにキャプテンとして、選手としてもチーム一丸になって戦いたいという思いはあります。
──被災したときにプロスポーツ選手ができることとは何でしょうか?
小林:5年前(東日本大震災)、栃木で被災しました。現場で被災した人しか、わかり得ないものがあります。あの時、大阪に戻ったら周りのみんなは平気な顔して「大変だったね」と言われたことが今でも心に残っています。だから今回、熊本が被災したときにみんなは「大丈夫?」と簡単に言うけど、それは違う。そんな軽いことではない。本当に真剣に考えなければいけない。
地元の選手として、キャプテンとして、力になれることはたくさんあると思っています。これだけの体力も、体もあるので、例えば益城町のみんなが食べるものがない状況に対し、物資を持って行ったり、手伝えることはたくさんある。僕らが食べなくても、体力が無かったり、物を運べなかったり、歩けない人たちに対し、僕らがサポートすることもできます。
街頭に行って募金活動をするのも熊本や益城町にとって、大きなサポートができると思います。特に益城町には本当に多大な協力をしてもらっているので、今日の募金活動もそうですが、与えられるだけではなく少しでも還元したいです。
■募金関連
熊本地震災害緊急支援募金 – Yahoo! JAPAN
http://donation.yahoo.co.jp/detail/1630023/
ローソン店舗等にて「平成28年熊本地震義援金」募金受付のお知らせ(寄付先:日本赤十字社)
http://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1268437_2504.html
公益財団法人神戸新聞厚生事業団
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201604/0008991492.shtml
熊本県での地震に伴う災害被害への緊急支援募金実施について – イオン株式会社
http://www.aeon.info/news/2016_1/pdf/160415R_4.pdf
熊本地震被災地支援のポイント募金を受け付けています – ECナビ
https://ecnavi.jp/bokin/kumamoto_earthquake/
【熊本地震】緊急寄付の受付開始 – ピースウィンズ・ジャパン
http://peace-winds.org/news/emergency/9577
平成28年熊本地震の影響により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧、復興と皆様のご無事をお祈りいたします。