昨季のNBDLプレーオフ争いは、最後の一席を巡ってレギュラーシーズン最終戦(全32試合)までもつれ込んだ。5位のアイシンAWは15勝16敗で、8位のレノヴァ鹿児島と、4位の大塚商会は16勝15敗で、3位のアースフレンズ東京Zとの対戦を残すのみ。もし、16勝16敗で並ぶと直接対決の結果(2勝2敗ながら得失点差でアイシンAWが上回る)により、アイシンAWがプレーオフへ。
何としても負けられない大塚商会だったが、結果は81-99(アイシンAWは78-61で勝利)。この試合、ゲームハイの32得点、得意の3Pを6本(成功率50%)と大活躍の長谷川智也だったが、あと一歩及ばす悔し涙にくれた。
今シーズン、長谷川はアイシンシーホース三河への移籍を果たした。トップリーグでのプレーで課題を見つけ、その克服に向けてスキルを磨いている。チームへの貢献を第一に、彼自身初となる「優勝」に思いを馳せながら、日々努力を怠らない。
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■「打つ」ことが仕事。確率を上げることが課題
─今シーズン、アイシン三河でプレーしてみての感想はいかがでしょうか?
長谷川:20試合ぐらい過ぎましたが、自分ができる部分とできない部分がはっきりしてきたというか……2番ポジションとして、シュート成功のパーセンテージが低いので、そこは絶対に改善しなければなりません。ただ、シュート打つこと、躊躇しないで狙うことはできるようになりました。課題はシュートの確率を上げること。シンプルですが、そこを求められているわけですから。
──シュートを打つことはできても、確率がまだ低い?
長谷川:「1本のシュートを確実に決めること」を求められていると思っています。ベンチスタートですから、試合に出たら流れを変えることが重要な役目。であればなおのこと、シュートの確率を上げなければなりませんし、僕も乗っていけません(笑)。積極的にシュートを打つこと。それができなければ存在価値がありませんし、アピールできません。そういうプレーを求められているのはわかっていますから、あとは1本1本のシュートの確率を上げ、価値あるシュートになるようクオリティを上げていくことが重要になります。
──シーズン前、鈴木(貴美一)ヘッドコーチは「練習についてくるのがやっとだから」と評されていました。改めてお聞きすると「良くなった。彼の働きもっと必要になる」とのことでしたが?
長谷川:そうですね、当初は遠慮というか、気後れすることがありました。今もチームのファーストオプションに入ってはいませんが、セカンドチームとしてスクリメージをやっても「負けたくない」という気持ちが大きくなってきました。メンタル面もですが、日々の積み重ねでスキルの面でも手応えを感じるようになっています。トップレベルのチームメイトと練習する中で、自然と成長できているのは間違いありません。
──改めて、ご自身のバスケ歴をお聞きしたいのですが? 出身は新潟県ですね!?
長谷川:中学時代(新潟市立舟栄中学)は1年生の時、全国大会に出場しました。高校時代は新潟商業で3年連続インターハイ出場。2年生の時に3位に入ったのが最高成績です。法政大に進学しましたが、2部降格を経験しています。
──大学卒業時、トップリーグでプレーしたいという思いはありましたか?
長谷川:ありました。ただ、今とは状況が違っていて、自分の希望通りにはなりませんでした。最後に誘っていただいたのが大塚商会(JBL2)で入社を決めたんです。
──その時点でトップリーグ入りは果たせませんでしたが、それは新たなモチベーションになりましたか?
長谷川:そういう思いは封印したというか……3年間、大塚商会でプレーさせていただきましたが、営業担当のビジネスマン。バスケのことより、まずは翌日の仕事の段取りを考えるが最優先になります。それから少しでも時間が空いたらジムに行く、という生活でした。チーム練習は限られていましたが、与えられた環境で精一杯頑張ろうと思っていました。
──もっとバスケに打ち込みたいというフラストレーションは?
長谷川:それはなかったです。1年目が終わり、移籍の話がなかったわけではありませんが、そのシーズンはあまり調子が良くなくて……このままチームを離れるわけにはいかない、そう考えていました。2年目を終え、「またチャンスがあれば」そう思っていたんですが声は掛かりませんでした。
──今シーズン、アイシン三河でプレーすることになりましたが、その時の心境はいかがでしたか?
長谷川:思いがけずプレーのチャンスをいただいたというか……それはもう震え上がりました。小さい頃からテレビで観ていたチームですし、伝統のある強豪チームですから……すぐ親に連絡しました(笑)。東芝神奈川の辻(直人/#14)や日立東京の伊藤(駿/#7)などは、昔から仲のいい仲間がいますが、彼らの試合は一観客として観に行っていました。今は同じコートに立つわけですから、ライバルですし負けるわけにはいきません。
──震えたのは武者ぶるいですね(笑)。昨年末、大塚商会の青野和人ヘッドコーチに長谷川選手の移籍についてお聞きました。「チームとしての取り組みが間違っていなかったと感じましたし、選手たちにはいい刺激になりました」とのことでした。それを聞いていかがでしょうか?
長谷川:嬉しいですね。大塚商会でのキャリアはプラスになっています。NBDLは気になりますし、大塚商会は上位をキープして好調ですよね(笑)。チームを離れましたが、とてもいいタイミングだったと思っています。自分自身、「上でやりたい」という気持ちを持続できていたのかというと……正直、諦めてかけていたかもしれません。ただ、今回の移籍で“頑張ればチャンスはある”と実感しました。トップリーグは遅いデビューになりましたが、B.LEAGUEを視野に入れてプレーしていますし、同じようなケースは増えると思います。
──これまで優勝経験はないそうですが、アイシン三河ではチャンスがありますね?
長谷川:何としても「優勝」を味わいたい! 喜び方がわからないので、たぶん頭が真っ白になるでしょうね(笑)
=追記=
前述のインタビューは2016年1月3日のこと。昨シーズン終了後、NBDL以外のコートでプレーする姿を見ており、NBLへの飛躍を知った。初タイトルへ向けた意気込みを聞くためだったが、その時点では、
「アイシン三河はALL JAPAN 2016で5年ぶりの優勝を遂げた。そこには全身で喜びを表現する長谷川の姿があった」。
「アイシン三河はALL JAPAN 2016では●位に終わった。“頭が真っ白になる瞬間”はリーグ優勝まで、しばしお預けだ」
二種類の締めの言葉を用意していたが、結果は優勝。長谷川のスタッツは第2Pのみ(5分11秒)の出場で9得点、3Pシュート3本は100%。しかも、相手に逆転を許した直後に2本……。「比江島選手が休めてよかったです」(長谷川)とホッとした表情で試合を振り返った(アイシン三河 89-73 リンク栃木:2016年1月11日)。
NBLのレギュラーシーズンは1月17日(日)のALL STAR(@川崎市とどろきアリーナ)を挟んで1月20日(水)から。後半戦が始まれば、コートでのぶつかり合いはますます激しさを増す。ベンチプレーヤーの活躍がなければ頂点へはたどり着けない。そこにはファーストチーム、セカンドチームの区別、力の差などない。緊迫した場面で貴重なシュートを決め、チームを勝利に導く長谷川の存在感が増すだろう。「これまでは比江島や金丸の調子が上がらなかったり、ファウルトラブルになったり、少し休ませるために長谷川を起用していました。これからは彼のシュートが欲しい、そういう場面でコートに送り出すことが増えるでしょうね」(鈴木HC)
……「アイシンに来てから、このファイナルがベストでした!」と笑顔の長谷川。NBDLからNBLへと舞台を移し、新たな夢へまっしぐらだ。次はリーグ制覇を果たした後、コート上のヒーローインタビューで「この1本のために練習してきました!」と答える彼の姿を見てみたい。
ALL JAPAN 2016 ⇒ http://alljapan2016.japanbasketball.jp/
NBLオフィシャルサイト ⇒ http://www.nbl.or.jp/
NBDLオフィシャルサイト ⇒ http://www.nbl.or.jp/nbdl/