Text & Photo by F.Mikami
NBL 2014-2015シーズンはアイシンシーホース三河の優勝で幕を下ろした。レギュラーシーズンの途中から26連勝という記録と打ち立て、勢いに乗っていたトヨタ自動車アルバルク東京を3勝1敗で下してのNBL初制覇である。
勝因をベテランガードの柏木真介がこう言っている。
「昨シーズンと違う点として、みんながチームとしての約束事を徹底できたことが挙げられます。また我慢もできるようになりました。それらが優勝にたどり着けた一番の要因だと思います。あとは若い選手たちがアイシンのバスケットに慣れて、自信を持ってプレイしたこともプラスになりましたね」
徹底と我慢、そして若手の成長。それらがうまくマッチして、頂点に立ったというわけだ。確かにアイシン三河の若手の成長は著しかった。プレイオフMVPに輝いた金丸晃輔のスコアリング、比江島慎のチャンスメイク、そして柏木と同じポジションである橋本竜馬のハッスルプレイ。次代のチームをけん引すべき選手たちが自覚と責任に目覚めたことは明らかな変化だったし、ファイナルを大いに沸かせる要因として十分だった。柏木が彼らの成長を抜きにアイシン三河の優勝は語れないのも頷ける。
ただ、柏木がそれを強く感じるもう1つの理由として、自身が負った左ひざ半月板損傷という大きなケガもある。シーズンの途中から痛み始め、治療とトレーニングとゲームを並行していたが、痛みは治まらない。昨年末には歩けなくなるほど悪化し、1か月半ほど休養をしたが、それでもゲームに出ると痛みがぶり返す。ならば思い切って、レギュラーシーズンはチームメイトに託して、プレイオフに照準を合わせよう。柏木はそう決断をした。
ファイナル前日の公開練習で柏木はこんなことを言っている。
「手術したほうが治ると思うんですけどね……ただ手術をするとプレイができなくなるので、そこをどうするか。もちろんシーズンが終わった後にしっかりと検査をするつもりですけど、今はね、ファイナルがあるので……ケガは自分自身だと思うんです。自分がやれると思えばやれると思うし。ここまで来たらやるしかない」
昨シーズンはファイナルに進出できず、天皇杯でもここ2年はファイナルの舞台に立てていない。若手の成長が見える今シーズンこそ、その悔しさを晴らす次の一手となる。今年こそファイナルでプレイしたい。その思いだけが柏木を突き動かしていたわけだ。
「それまではファイナルに行けて当たり前という気持ちがあったんです。でもここ2年ほどファイナルに行けなくなって、初めて『ファイナルに行きたい』という強い気持ちが沸いてきました。昨シーズンのファイナルに行けなかった悔しさがあったから、今年は絶対に行きたいと思っていたし、負けたからこそ優勝したいという気持ちがさらに強まりました」
ファイナルでは1戦目、2戦目こそヒザの調子が思わしくなく、プレイでも精彩を欠いた。しかし3戦目以降は持ち前のフィジカルの強さと、アグレッシブさを出してきた。そこには痛み止めを飲んだことでヒザの痛みに煩わされることがなかったという要因もある。痛み止めはしかし、服用した翌日に故障個所が腫れるという難点もあったため、連戦では使うことを躊躇っていたという。翌日に試合のない第3戦はもちろん、最終戦となった第4戦でも服用したのは、この日で勝負の決めようという柏木の決意の表れでもあった。
そこまで細心の注意が必要になるケガをしたことで、柏木は今の自分には何ができて、何かできないのかを自分なりに理解し、そのための準備をしてきた。果たして第3戦、第4戦は“柏木真介のプレイ”がまだまだ錆びついていないことを見せるのに十分だった。
柏木はそれを「いつもどおりのプレイ」だと言う。「今までやってきことを、ファイナルの舞台でもいつもどおりやることを心がけた」だけと。確かにフィジカルの強さを生かしたディフェンスやボールキープ、ルーズボールへのダイブは柏木の真骨頂である。チャンスがあればゴールにアタックし、シュートも決めれば、アシストを繰り出すことも「これまでどおりの」柏木である。
だが一方で変化した面もある。
「今までだったら『ダメなときは自分が行くしかない』と多少強引なプレイもしていましたけど、今はどうしてもヒザの状態がよくないですし、自分ではどうにもできないところもあったから、そこは自分が陰に隠れてもいいからスクリーンをかけるとか、比江島や金丸を生かすためのプレイをしようと考えたんです。もちろんチームで徹底すべきディフェンスやリバウンドにも集中しましたし、あとはゲームの流れを見て、オフェンスの組み立てをしっかり考えることをより意識していました」
第4戦の最終盤、アイシン三河の鈴木貴美一ヘッドコーチがポイントガードをファウルトラブル気味だった橋本ではなく柏木に託したのも、ケガの乗り越えた経験豊富なベテランガードを信頼しての判断だったのだろう。柏木はそれを「僕もコーチも今日(第4戦)で勝負を決めようという同じ気持ちだったのだと思う」と言い、なおこう続ける。
「僕はコートに出たときに自分の仕事をしようとしか考えていませんでした。もしあの場面で竜馬が使われるのであれば竜馬に託すだけ。そのあたりの気持ちの切り替えは自分の中でもしっかりできていました」
このあたりも柏木の変化である。がむしゃらに「最後までコートの上に立っていたい」と考えるのではなく、成長した橋本を信じつつ、チームが勝つために自分の求められる場所で自分のできることをするだけ。それは覚めているとか、淡々としていることとは異なる、心の余裕が生み出す高次元の“熱さ”である。
“成長”という言葉がベテランには似つかわしくなく、若手を形容するものだとしたら、ベテランの域に入ってきた柏木のこうした変化は“成熟”といえる。つまりアイシン三河の優勝は、若手の“成長”とベテランの“成熟”がうまく絡み合って生まれたものなのだ。
敗れたトヨタ東京も若手が台頭しており、今後の日本代表を期待させられるものだった。その一方で柏木らベテランが静かに成熟に向かうシーンも垣間見えた、見どころの多いNBLファイナルだった――。