2シーズン連続、ヘッドコーチが途中で変わる不測の事態に陥る横浜ビー・コルセアーズは、昨シーズン同様に中地区最下位にいる。フロントの方向性が明確ではなく、指揮官と選手の信頼関係が築けなければ容易に勝つことはできない。60試合続くレギュラーシーズンを通して、チームを強固なものにしていかなければならないが、ヘッドコーチが交代となった横浜は再び振り出しに戻った状態である。しかし、早めに手を打ったことは諦めていない何よりの証拠でもある。栃木ブレックスを初代Bリーグ王者へ導いたトーマス・ウィスマン氏がアドバイザーとして就任。そのおかげで練習量が増え、質も高まりつつあることが数字にも表れて始めている。中でも顕著に上向いているのがアシスト数だ。後半戦の初戦となった千葉ジェッツ戦に敗れはしたが、20本のアシストを成功させている。少しずつチームとして戦えている気配を感じることができた。
アシストが増えてくると我々にとっては良いオフェンスができている」
昨シーズン同様、沈没しかけている海賊船の舵を取ることになった尺野将太ヘッドコーチ。天皇杯からオールスターブレイクの期間を利用し、本格的な改革がスタート。天皇杯チャンピオンの千葉に対して準備してきたプレーが功を奏し、最初の10分間だけではあったが10点のリードを奪うことに成功。佐藤託矢選手がケガで出られないことを考慮し、「オンザコート1の時間帯はかなり不利になることは分かっていた。マイケル・パーカー選手に対して、チームでどう守るかという準備してきたことはしっかり出せた。相手の疲れなどいろんな要素はあるとは思うが、第1クォーターは練習してきた対策がうまく出せた」と尺野ヘッドコーチも手応えを感じる結果を残している。だが、その後は千葉の得意なトランジションゲームから一気に逆転され、79-95で敗れている。
「第3クォーターはボールマンの1on1だけになり、相手に流れを持って行かれてしまった。チームでしっかりオフェンスすることができれば、自然とアシストも増えて来るし、イージーシュートを打てるようにもなる」
堅守でしのぎを削り合っている東地区の千葉を相手に、両試合とも70点台しか獲れなかった。しかし、前半戦の横浜は平均70点にも届いていない。その得点力が伸びていることが大きな進歩である。その点について尺野ヘッドコーチは、「フロアバランスやスペースを取るように練習はしている。ボールが回って、アシストが増えてくると我々にとっては良いオフェンスができている」と話しており、ウィスマンコーチのアドバイスを受けながら改革してきたことが少しずつ形になり始めている。
日本人得点王がいることの期待感
チームの得点が伸びているのと比例するように川村卓也選手もコンスタントに二桁得点を挙げ、本来の姿を取り戻しつつある。「求められていることは得点を獲ること」と、自他共に認める横浜の得点源だ。千葉との初戦は第1クォーターだけで8点を挙げた。しかし第2クォーター以降は、「長年リーグを支えてきた一人なので、リスペクトをしながらも自分の力を出せるようにしっかりとディフェンスをしたつもりです」と言う千葉の小野龍猛選手を筆頭に、原修太選手やアキ・チェンバース選手が代わるがわるプレッシャーをかけたことで得点が止まる。その後はフリースローでの2点しか決められていない。翌2戦目は16点を挙げ、少なからず役割を果たしていた。
30試合を終えた現時点での得点ランキングトップ10に名を連ねる日本人選手は、宇都直輝選手(富山グラウジーズ)ただ一人。平均16.1点で6位だが、1位のダバンテ・ガードナー選手(新潟アルビレックスBB)は平均29.4点であり、10点以上の差が生じている。ゆえに、得点王は外国籍選手が獲るイメージがこびりついていることだろう。
しかしJBL 2008-09シーズン、24年ぶりに日本人得点王となったのが当時23歳の川村選手だった。そこから3年連続得点王となり、2011年にはアジアのベスト5にも選ばれている。海外の国際大会に行けば、「川村はどうしてる?」とFIBAのスタッフや各国メディアにいつも聞かれるほどの知名度を誇る。日本を代表するスコアラーがいる横浜だからこそ、簡単に最下位から抜け出せる力を持っていると期待をしてしまう。川村選手は言う。
「これまではチームの流れが異常に良くなかったので、自分がどうにかしなければいけないとも思っていますし、そういう思いを自分から発していくことによってチームメイトが反応してくれるのであれば、継続してやらなければいけない。何か強みがあるチームではないので、何かきっかけを作れるようにアクションを起こしていきたいです」
8勝22敗。中地区で唯一、勝率3割を切る横浜だが、2位富山までの差はたった7ゲームしかない。各地区2位までに与えられるチャンピオンシップに向け、まだまだ射程圏内にいる。巻き返しを図るためにも「やるべきことしかない」と川村選手は現状に釘を刺す。
「手を抜くことは一切できないし、辛かった昨シーズンをしっかり自分たちが思い出し、もうあの場(残留プレーオフ〜入替戦)には立たないという強い意思を持って取り組むことが必要です」
横浜の選手層は、タレント揃いと言われる東地区と比べても遜色ない。足りないのは「気合いと根性」と力を込める尺野ヘッドコーチが先頭に立ち、仲間を信頼し合いながら戦う集団になれればすぐさま最下位から抜け出せるはずだ。東地区から勝ち星を挙げるのはどのクラブにとっても難しい。横浜にとって目下の敵は同地区である。今週末、4ゲーム差で4位にいる名古屋ダイヤモンドドルフィンズを迎えるホームゲームは、今後を占う大事な一戦になりそうだ。
文・写真 泉 誠一