学生バスケットにはさまざまな「カップ戦」がある。春休みや夏休みなど、おもに長期休みにおこなわれることが多く、各チームは実践のなかで日ごろの成果をチェックしたり、新たな課題を見出したりする。
その1つで、高校バスケット界の「第4の全国大会」と呼ばれるカップ戦があることをご存知だろうか? インターハイ、国民体育大会、ウインターカップに次ぐ大会――それが「能代カップ」である。
その名からもわかるとおり、ホストチームは秋田・県立能代工業(主催は能代市バスケットボール協会と能代市山本郡バスケットボール協会)。全国大会58回の優勝を誇る、言わずと知れた高校男子バスケット界の超名門校である。その能代工を中心に、毎年ゴールデンウィークに全国の強豪校が能代市に集まって、真剣勝負を繰り広げる。
第1回大会のベスト5に能代工の三浦祐司(現・宮城県教員)や北陸の佐古賢一(現・広島ドラゴンフライズヘッドコーチ)が選ばれており、その後も愛工大名電の古田悟(現・横浜ビー・コルセアーズアソシエイトコーチ)、能代工の長谷川誠(現・秋田ノーザンハピネッツヘッドコーチ)や田臥勇太(栃木ブレックス)、志村雄彦(仙台89ers)、永吉佑也(川崎ブレイブサンダース)、安藤誓哉(秋田ノーザンハピネッツ)、渡邊雄太(ジョージ・ワシントン大学)などが同大会で活躍し、その後の飛躍に結び付けている。第19回大会(2006年)にはモントロス・クリスチャン高校の伊藤大司(アルバルク東京)も出場し、ベスト5に名を連ねている。
第10回大会以降は例年6チーム・3日間の日程でおこなわれているが、30回目の記念大会を迎える今年度は7チーム・4日間の日程でおこなわれた。能代工を率いる栄田直宏コーチが言う。
「第1回大会は私が能代工3年生のときでした(栄田コーチは、能代工で一番うまい選手がなると言われているマネージャーを務めていた)。その年、能代工として初となる単独アメリカ遠征もさせていただき、第10回大会ではそのアメリカ遠征でお世話になった高校を招きました。これは田臥が高校2年生のときです。第20回大会にはドイツのチームを呼び、30回目の今年はどうしようという話になって、周囲からはまた海外のチームを、という声もあがりました。しかし、ちょうどよくと言っていいのかわかりませんが、30回大会を目前にした昨年、我々は一度も全国大会に出場できませんでした。そんな我々としては、とにかく連戦をしたかった。当初は5日間やらせてほしいとお願いしたのですが、それは叶わず、でもゴールデンウィークの日程的に4日間はできるということで、日本のチームだけで開催していただくことになりました」
連戦をしたいというのは、能代工が苦しい状況のなかでもインターハイやウインターカップで優勝するためには、連戦を勝ち抜かなければならないという高い意識を失っていないからだ。現実的ではないかもしれない。事実、結果として能代工は今大会で1勝もできず、最下位に終わったが、それでも「このクラス(全国トップクラス)のチームとゲームができるなんて、やりたくてもできることではありません。これは能代工だからできることなんです。主催してくれた協会や、趣旨に賛同してくれた各チームなど、さまざまな環境に感謝したい」と栄田コーチは言及する。高い意識を保って、高いレベルのチームと試合を重ねることで、高校生たちは飛躍的に成長し、夢物語が現実に変わり得ることもあるのだ。
そんな能代カップという独自の文化を持つ大会に感謝するのは、能代工だけではない。第2回大会以降、コーチとしては16回目の参加となる宮城・明成の佐藤久夫コーチは言う。
「能代カップは自分たちの力を図る大会というだけでなく、毎試合だらしないゲームができない大会でもあります。それは呼ばれた責任感と、周囲からの期待――勝ってほしいという期待ではなく、いいゲームをしてほしいという期待を受けているからです。しかもこうして能代市民の方々が多く観戦に来てくれるなど、公式戦と同じ経験をさせてもらえる。そういう意味でも本当に意義のある大会です」
そして、高校男子バスケット界の名将の1人である佐藤コーチはこう付け加える。
「佐藤久夫が指導者としてどこで育ててもらったかといえば、能代カップなんです」
能代カップはつまり、選手だけでなく、真剣勝負のなかでゲームをどう運ぶかといったコーチの采配をも学ばせる大会でもあるというわけだ。
また今年度が初出場となった愛知・中部大学第一の常田健コーチは「初めての参加なのに、誰?という方から声をかけられたり、写真を一緒に撮ってほしいと言われました。こんなことは愛知県はもとより、全国大会でもないことです」と、能代市民のバスケットに対する愛着を感じたそうだ。そのうえで、さらなる驚きを口にする。
「我々は初めての出場だったので、選手たちに2階の観覧席で弁当を食べながらゲームを見させていたんです。でも能代市民の方で何かをしながらゲームを見る人がいないことに気付いて、すぐに控室で食べるように言いました。入場料を支払って見に来る観客のみなさんは真剣にバスケットを見ている。その席を我々が占領して、食事をしながら観戦するのは違うと感じたわけです。これはすごいなって思いました」
そんな能代市民の、バスケットに対する愛情、真剣さが「バスケの街、能代」を形成し、彼らのバスケットに対する目を肥やしてきたのだろう。ひいてはそれが、今は苦しい日々を送っているが、“必勝不敗”の能代工を築いてきたとも言える。
チームとしての完成度は、各チームともまだまだ半分もできあがっていない。それでも各チームの中心選手が繰り出すレベルの高いプレーや、ケガで苦しんでいた選手の復帰過程、粗削りながら新戦力となりうる1年生の出現などを見ていると、それらがインターハイ、国体、ウインターカップに向けてどう洗練されていくのか、楽しみになってくる。
能代カップはたった7チームの“全国大会”だが、他の3大会に勝るとも劣らない、純度が高く、濃厚な大会でもある。
大会結果
1位:洛南(京都)5勝1敗
2位:明成(宮城)5勝1敗
3位:福岡大学附属大濠(福岡)4勝2敗
4位:中部大学第一(愛知)3勝3敗
5位:市立船橋(千葉)2勝4敗
6位:開志国際(新潟)2勝4敗
7位:能代工業(秋田)0勝6敗
文・写真 三上 太