81-74で富山グラウジーズに逆転勝利を挙げた4月29日、「まずは明日、自分たちの力で勝って、チャンピオンシップ進出を勝ち獲ること」を伊藤駿選手は宣言していた。しかし、直後に行われた西地区3位の琉球ゴールデンキングスが敗れたことで、“明日”を前にサンロッカーズ渋谷のチャンピオンシップ進出が決まった。
ルーズボールでつなぎ、我慢のバスケットが出来始めている
伊藤選手は2週間前まで肉離れにより6試合を欠場。その間、チームを俯瞰して見られたことで、「インサイドを使うプレーにシフトしていることもありますが、あまりにもボールが動かない時間帯があり、それがディフェンスにも影響していました。オフェンスがダメでも、気持ちを切り替えてディフェンスをしようということを自分は思ってみていました。ガードからディフェンスが始まると思っています。『背中で見せる』ではないが、チームを鼓舞していかなければいけないです」と話していた。“背中で見せる”とは、青山学院大学出身の伊藤選手の恩師である長谷川健志氏が伝えてきた言葉である。その教えを今も守って前線からハッスルすることを心がけている。
今シーズンはすでに29試合の先発を任されているが、昨シーズンはたった3試合しかなかった。プレータイムも平均16.2分から24.6分に伸ばしている。チームを引っ張るポイントガードとして、チームの成長を以下のように語ってくれた。
「我慢できる時間帯が徐々に、序盤よりは出てきたかなと思います。それはすごく大事なことです。誰か一人が崩れてしまったら、そこからチームは崩壊してしまいます。今日の試合でも、アイラ(ブラウン)がダイブしてルーズボールを取ったり、そういうプレーからつなげていかないといけない。先の話ですが、チャンピオンシップに出ても何も出来なくて終わってしまう時間もあると思うので、そういうプレーこそ大事にしなければならないです。少しずつ良くなっていると感じています」
突如起用した2ガードを勝因に挙げたヘッドコーチだが…
富山戦との初戦は、相手のバックコート陣に走られ、最大13点のリードを奪われた。その勢いを止めるべく、BTテーブスヘッドコーチは秘策ともいえる2ガードの布陣で対抗する。「伊藤とベンドラメ(礼生)を同時に起用したのも最後に勝ち切れた要因。2人ともピックを使える選手だが、コート上に1人ではなく、2人を同時に起用したことが良かった」とテーブスヘッドコーチは勝因に挙げていた。
結果として功を奏した形となった2ガード戦法だが、あまり機能していないようにも見えた。伊藤選手も「2ガードが機能していたというよりは、オフェンスに関してはうまくハマったかなという感じです。それは結果論であり、ギャンブル的要素も高かったです」というのが率直な感想だ。
だが、2ガードの相棒であるベンドラメ選手をうまく乗せたことで勝利を引き寄せたとも言える。「礼生はもっとアグレッシブにやらなければ、アイツの良さも出てこないです。僕がコントロールをして、ピック&ロールを使って攻めるときには礼生が自分でガンガンやれとは言っていました。その良いところは出せたかなという感じです」と言う。そのベンドラメ選手は19点を挙げる活躍を見せた。
様々なシチュエーションのゲームをこなしながら、伊藤選手自身の成長も実感している。「元々、そんなにオフェンスでガンガンやるタイプではなく、どちらかと言えばディフェンスのタイプでした。しかし今シーズンから、どんどん攻めろとヘッドコーチには言われていますし、その結果が出ていると自分でも自負しています。そこは自分自身を褒めてあげたいし、もっともっと伸ばしていかないといけない部分です。チームの一つの武器にしていけるように、自分に自信を持ってやっていきたいです」と言う今シーズンは平均7.3点。昨シーズンの平均2.3点を大きく上回っている。
単純なことだが、相手の特徴を出させないディフェンスを徹底
昨シーズンからヘッドコーチが変わり、選手も大きく入れ替わったSR渋谷は長いシーズンを通して、ようやくチームとしてのまとまりを見せ始めている。「まだまだチームとして足りない部分は多いですし、難しいかもしれないけど短期間でも伸ばさないといけないこともあります。コミュニケーション不足や簡単なミス、ターンオーバーが目立っているので、練習中から話し合っていかなければならないです。日本人同士ならば分かり合えても、外国人選手とはもっともっとコミュニケーションを取らないといけないと思っているし、突き詰めていきたいです」と残り少ない試合でも成長し続けなければならない。だが、翌日の富山戦は72-76で競り負けてしまった。
チャンピオンシップ進出を決めたSR渋谷だが、現時点ではワイルドカード下位であり、このまま行けばBリーグ勝率1位と対戦することになる。中地区2位の三遠ネオフェニックスとはゲーム差1。だが、三遠を抜いたところで、チャンピオンシップでは上位チームとの戦いは避けられない状況だ。
「ディフェンスでは、相手のやりたいようにやられてしまっています。シューターだったらシュートを打たせないなど、単純なことですが相手の特徴を出させないことがまだまだ遂行できていません。1点に泣くゲームも絶対に出てくると思うので、そこはもっと突き詰めていくためにもうるさく言い続けなければいけないです」という課題点をどこまで精度を高められるかが一つのカギとなる。
5月3日は大田区総合体育館で新潟アルビレックスBBを迎えるレギュラーシーズン ホーム最終戦。続く週末のレギュラーシーズン最終戦は現在勝率1位の川崎ブレイブサンダースとの2連戦が待っている。現時点ではチャンピオンシップ1回戦で戦う可能性が高い。強い相手との対戦を通じて成長するとともに、初戦を突破するきっかけを見つけたい大事な直前対決でもある。
文・泉 誠一 写真・安井麻実