秋田ノーザンハピネッツのホームであるCNAアリーナ★あきたへ向かう前、時間に余裕があったので県立体育館に立ち寄り、外にあるバスケットコートをのぞいてみた。まだまだ寒い日が続く秋田にも関わらず、3人組の小学生がTシャツ姿で汗を流していた。あまりにうれしくなってしまい思わず声をかける。「ハピネッツの中で好きな選手は?」という問いに対し、「安藤誓哉選手!」と声を揃えた。
長年、秋田を支えてきたキャプテンの田口成浩選手ではなく、今シーズンやって来たばかりの安藤選手だったのは意外だった。だが、そのプレーを見れば納得もいく。
80-70で東地区3位の千葉ジェッツを破った4月1日の試合では16点を挙げた。司令塔としてゲームを作るとともに、ルーズボールを追いかけてチームのピンチを救っていく。この試合で獲った2本のリバウンドは、全て4クォーターに記録。勢いが千葉へと傾きそうになった時、安藤選手が飛び込んでもぎ取ったその2本は、勝利を呼び込む大きなプレーとなった。
ピック&ロールに対する意識が少し変わりました
直近の3節では、対戦当時西地区2位(現在4位)の名古屋ダイヤモンドドルフィンズに2連勝し、前節は東地区2位のアルバルク東京から金星を挙げている。ホームに戻った今節は、上位の千葉からも白星を奪うことに成功した。好調の要因について、「ピック&ロールで相手のディフェンスがズレた中でインサイドを使うというのが、ここ最近はチームとして共通理解ができ、機能し始めてきました」と安藤選手は言う。
3月11日よりレオ・ライオンズ選手が新たに加わったことで、秋田のピースが揃ったのも大きい。
「レオが入って来てからチームが少しずつ変わり、僕たちが目指すバスケットが確立され始めています。ピック&ロールをクリエイトし、ピック&ロールゲームの質を高めているところです。ポイントガードとして、その起点になれるようにしなければなりません」
安藤選手は日本代表候補として毎月のようにルカ・パヴィチェヴィッチテクニカルアドバイザーの指導を受けたことで、あらためてピック&ロールの奥深さを感じてもいた。
「(ディフェンスを広げるための)ストレッチドリルをしてスペースを見ることは、より意識するようになりました。その中で4番の谷口(大智)選手やライオンズ選手、(イバン)ラバネル選手がロールアップしてくるところが、しっかりと見られるようにもなっています。ピック&ロールに対する意識が少し変わりました」
長谷川ヘッドコーチはもう一人の外国籍選手である「(スコット)モリソンのスクリーンが良かった」と千葉戦の勝因として付け加えた。「あのスクリーンによってズレができ、モリソン自身もシュートを決められたことが大きかった」とコメントしたプレーをきっかけに、1クォーターに20-9と大きくリードを奪うことができた。外国籍選手たちがガッチリとスクリーンをかけてくれるからこそ、「いかにガード陣がそこをうまく使えるかが今後のカギになってくる」と安藤選手は話している。
オンザコート1の時間帯は201cmの谷口選手が支えていた。千葉には帰化枠のマイケル・パーカー選手がいる中でも、オンザコート1の時間帯をどちらも上回ることができたことは大きな自信となったはずだ。「よく谷口ががんばってくれた」と長谷川ヘッドコーチは称えている。さらに、「向こうに流れが傾きかけたときに、谷口が3Pシュートを3本決めてその流れを戻してくれた。あれは大きかった。彼の成長が我々の勝利につながってくるし、オンザコート1の時間帯は必ず彼がコートに出るわけですから、今日の試合が良い材料になったと思う」と試合毎に成長する姿を喜んでもいた。
アドレナリン全開のホームゲームで、ひとまず残留プレーオフ圏内から脱出
残留プレーオフ争いから抜け出すためにも下位グループとの対戦は取りこぼさず、上位クラブに1つでも多く勝っていかなければならない。
「本当に1勝が欲しいので、明日(4月2日)も気合いを入れていきたいです」と安藤選手が語って臨んだ2日目だったが、ダメな秋田が出てしまった。前節のA東京戦に敗れた試合も「出だしが本当に悪かった」と反省。修正して臨んだことで序盤から気合いの入ったプレーで千葉から勝利をつかむことができたにも関わらず、翌日は逆に1クォーターで15-30と大きくリードを奪われて敗戦。再び、元に戻ってしまった。
だが、下を向いているヒマはない。幸いにして、横浜ビー・コルセアーズが川崎ブレイブサンダースに2連敗したことで15勝34敗と勝率が並ぶ。横浜との直接対決では2連勝している秋田が暫定14位となり、残留プレーオフ圏内から脱出。次節はアウェーで、真上にいる3位のレバンガ北海道との対戦が待っている。
残り11試合中ホームゲームは6試合あり、その全てが上位クラブとの対戦となる。会場を包み込むピンクの声援は頼もしかった。栃木ブレックスから移籍してきた安藤選手が、「コートに立つと大勢のファンの熱い声援が感じられて、アドレナリンはアウェーゲームよりもホームの方が出ていますね」と言うほどボルテージは高い。残留プレーオフ争いから抜け出すためにも、ファンとともに、一つでも多くの白星を自らの手で奪っていくしか道はない。
すでに配布が始まった弊誌Vol.7(4月号)のテーマは「新時代リーダー論〜TRIPLE DRAGON〜」。今月はキャプテンやコート上のリーダーであるポイントガードを中心に話を伺っていく次第である。
文・写真 泉 誠一