Basketball spiritsフリーペーパー#03はいぶし銀の輝きを見せるベテラン選手特集。そこで掲載しきれなかった三谷藍選手のインタビュー記事をここで紹介します。
――今年で富士通に在籍して16年目を迎えた三谷さんですが、その間にヘッドコーチの入れ替わりもありました。指揮官が新しくなることで戸惑うことはありませんでしたか?
戸惑うというより、新しいヘッドコーチがめざすことがチームに浸透するにはやはり時間はかかります。これまで私は李玉慈さん、中川文一さん、岡里明美さん、薮内夏美さん、BT・テーブスさん、そして、現在の小滝道仁さんと6人のヘッドコーチのもとでプレーしてきましたが、どなたが就任したときもそれは同じですね。ただ私の場合はヘッドコーチの巡り合わせが良かったというか、とても恵まれていたと思います。
――それは具体的に言うとどういうことですか?
まず大学を卒業して富士通に入った年に李さんが新しくコーチに就任されたわけですが、ものすごく厳しいコーチで、毎日ダメ出しの連続でした。めげそうになることもありましたが、李さんは厳しいと同時にすごく細かく指導してくださるコーチで、振り返ると(新人の)私にとってとても貴重な時間だったと思います。学生から社会人になり、そこでバスケットをやっていく上での基礎のようなものが身に付きました。次の中川さんはそれと全然違う自由なバスケットで、最初は戸惑いもありましたが、基礎ができていたおかげで自分らしさを発揮できることができた気がします。優勝(オールジャパンにて2006年から3連覇)も経験できたし、楽しかったですね。自分のキャリアを少し積めたところで、岡里さん、薮内さんという若いコーチに出会い、BTで自分自身もう一度リセットできたみたいな。
――『リセット』というのは『原点に戻る』という意味ですか?
そうですね。実は私、BTがコーチになった年に戦力外通知を受けたんですよ。でも、まだ自分の力を出し尽くしていないという気持ちがあって、自分から(チームに)残してくださいとお願いしました。「残りたいです」と伝えたんですね。思えば自分からそうやって自分の意思を発信できるようになったのもそれまでいろんな人たちに出会って、いろんな意見を聞くことができたおかげかもしれません。その中で「自分はこうなりたい、ああなりたい」と考えるようになり、それを自己発信できるようになりました。
――長いキャリアの中では、他の選手たちの成長も感じることが多いと思いますが。
それはもちろんあります。毎日一緒に練習している(富士通の)選手たちもそうですが、1番驚いたのはリュウ(JX-ENEOS吉田亜紗美)ですね。代表で一緒にやっていて、彼女がまだ高校生のころから知っているんですが、本当にシャイで喋らない子でした。ところが今は年下の選手の面倒をしっかり見て、代表チームのキャプテンとして自分の言葉であれだけ喋れるようになった。立派ですよね。驚きというか、もう感動ですよ(笑)。つくづく経験というのは人を育てるのだと思いました。
――若い選手から悩み事の相談を受けることはありますか?
向こうから相談を持ちかけられるということはあまりないですが、様子が気になってこちらから話しかけることはあります。そこで「実は…」みたいな話を聞くことはありますね。人に聞いてもらうと楽になることはあるじゃないですか。私は口だけは堅いので誰にも喋らないし(笑)
――三谷さんは酒豪という噂もありますが、チームメイトともよく飲みに行くのですか?
ちょっと、ちょっと、誰がそんな噂を流したんですか!たしかにお酒は好きですけど、強くはないですよ。酔っぱらうとすぐ寝ちゃうし(笑)まあ楽しいお酒はストレス発散になりますし、みんなでよく飲みに行きます。なんでも飲みますが、強いて言えばレモンサワー派ですね(笑)
――今もトレーニングメニューが若手選手と同じというのは本当ですか?
基本的には同じです。ただ年々体力の回復が遅くなっているのも事実ですし、自分が無理だと思ったことは無理、できないことはできないとはっきり言うようにしています。
――若い選手になにかアドバイスするとしたら。
選手にとって1番怖いのはやはりケガです。それを回避するのになにが必要かと言えばセルフコンディショニングやセルフケアを大事にすることだと思います。私自身それに気づくのが遅かったんですが、そのことを意識するようになってからは大きなケガもなくなりました。たとえばアップとダウンはちゃんとやるというのはあたりまえのことですが、若いときはアップをちゃんとしなくてもOKみたいなところがあるし、トレーニングもそれほど意識しなくてもできちゃうところがあるんですね。でも、歳を重ねていくと、自分の体と向き合うことが必然的に増えます。私は30歳を過ぎたころに自分の体の変化に戸惑い、うまくいかないことで精神的に落ち込むことがありました。もっと早い時期から自分の体と向き合っていればよかったという思いもあります。だから若い選手も準備とケアは怠らず、セルフコンディショニングを整えていってほしいですね。そうすることで選手生命はどんどん延びていくと思います。
文・松原 貴実 写真・安井 麻実、泉 誠一