大学日本一決定戦となったインカレは、7日間に及ぶ熱戦に幕を閉じた。最終日、超満員の中で行われた男子決勝戦は、東海大学との激しい試合を制した筑波大学が66-51で勝利。春のトーナメント、秋のリーグ戦に続き、インカレでもチャンピオンとなり、シーズン当初から目標に掲げていた『大学3冠』『インカレ3連覇』を成し遂げた。
東海大学は、大会直前に右手を負傷した伊藤 達哉選手の背番号である「35」が入ったリストバンドを全員がつけてウォームアップに登場。会場にはBリーグで活躍中のOBたちの姿も見受けられた。筑波大学は「リーグ戦を勝ってきた自信・おごる事なき平常心・チャレンジャー精神」の3つを忘れずに最後の試合に臨む。互いの気合いがひしひしと伝わってくる。ファーストシュートは、東海大学の大矢 孝太朗選手がバスケット・カウントをねじ込み、ラストゲームは始まった。
序盤は筑波大学が若干ながらリード。東海大学はマンツーマン、ゾーンディフェンス、ゾーンプレスと変幻自在に守りを固めて反撃に出る。筑波大学の方は、2年生の波多 智也選手やルーキー増田 啓介選手の下級生がルーズボールやリバウンドを粘って、勢いづける。前半は34-23と11点差をつけ、筑波大学が3連覇に一歩近づいた。
寺園 脩斗選手の2連続3Pシュートから反撃を開始した3クォーターは、この10分間だけを見ると8-12と東海大学が上回る。42-35、筑波大学のリードは7点。4クォーター開始早々、筑波大学の生原 秀将選手がアンスポーツマンライクファウルを取られ、東海大学はフリースローを得る。一気にワンゴール差まで迫ることができるチャンスだったが、大矢選手のフリースローは1本しか決まらず、続くオフェンスも失敗に終わる。逆に筑波大学は杉浦 佑成選手、増田 啓介選手がジャンパーを沈めて46-36、一気に二桁リードを奪った。追い打ちをかけるように馬場 雄大選手のダンクでさらに引き離していく。
残り時間も5分を切り、16点差が開けば、浮き足だってしまってもおかしくはない。しかし、「まだだぞ!」「ここからだ!」と、筑波大学のベンチにいる選手たちが次々とコートに向かって声をかける。キャプテンの生原選手も、「ディフェンスで冷静になれ」とチームを落ち着かせた。
その警戒は正しく、手負いの虎状態の東海大学が最後に牙を見せて、襲いかかる。残り2分、関野 剛平選手がバスケットカウントと3Pシュートを連続で決め、54-47と再び7点差まで追い上げる。準備していた筑波大学は、慌てることなくファウルをもらってリードを開く。足を止めずに守り抜き、馬場選手がスティールからそのままダンクを決めて勝負あり。残り1分16秒から12点を挙げた筑波大学が66-51で勝利し、今年も日本一に輝いた。
本命なきインカレと言われる一方で、2連覇し、関東大学リーグを制した第1シードの筑波大学が優勝候補No.1であった。周りからの期待、王者として追われる立場であることが、選手たちには大きなプレッシャーと感じていた。優勝を決めたうれしさよりも、開放感に「ホッとした」とスタメン5人の感想はみな同じだった。
生原キャプテンは、「周りから勝って当たり前と見られる中、リーグ戦はなかなか簡単に勝てない試合がある一方で、完璧な試合ではなくても勝ててしまうこともあった。でも、インカレは完璧な試合を求めていかなければ勝てない。昨年と一昨年は(リーグ戦を優勝していないがゆえに)追う立場だったが、今年は追われる立場となったことが一番の違いです」と過去2回の優勝よりも気持ちの面での難しさを感じている。
優勝インタビュー時、感極まって涙を流した吉田 健司ヘッドコーチ。「優勝した3回とも勝ち方は全然違うし、勝てる保証はどこにもない。就任当初は2部でした。その時も絶対に1部に上がれると見られていましたが、入替戦で勝てず。4年目でようやく1部昇格を決めました。当時からがんばってきた卒業生たちがいたからこそ、今があるわけです。彼らのおかげで今、こうして花が咲かせることができました。そのことを昨日、かみさんと話したのを思い出して泣いてしまいました」と涙の理由を語る。
勝負の世界に絶対はない。期待値に比例するように、のしかかるプレッシャーも高く、勝負は難しくなる。それでも決勝では、「私以上に選手が楽しんで、なおかつ気持ちを強く持ってプレイしてくれたのが本音。感謝しています」と吉田ヘッドコーチは選手を称え、大学3冠、インカレ3連覇の目標を達成した喜びにひたっていた。
3連覇の次は、自ずと4連覇に期待がかかる。過去のインカレにおいて、4連覇を成し遂げたのは日本体育大学(1996-1999年)だけである。
「筑波はこれからのチーム。4年生が主に試合に出ていましたが、でもやっぱり筑波は国立であり、推薦者数が3人と限られる中ではどうしても下級生の力が必要になります。各学年の選手たちはそれぞれ力を持っていますし、間違いなくチーム一丸となれば勝てると思ってます。他人事のようになってしまいますが、また追われる立場という難しい状態になるけど、ぜひ苦しんでがんばってもらいたいです」と、生原キャプテンは後輩たちに期待とともにプレッシャーをかけた。
その言葉を受けたエース馬場選手は、「本当にこの1年間は、ものすごく4年生の存在が大きかったです。これから僕たちが最上級生になるわけだし、もっと責任をもたなければならず、支える立場になっていかなければなりません。気持ちの面でもプレイの面でもチームを引っ張っていきたいです」と抱負を語った。
大学バスケシーズンはこれで終わった。しかし、年明け1月2日より開幕するオールジャパン(天皇杯・皇后杯)が待っている。男女各上位8チームが、BリーグやWリーグ、社会人チームから高校生まで垣根を越えた真の日本一を決める戦いに挑む。2012年大会では、インカレを2連覇した青山学院大学がレバンガ北海道を93-81で破り、ベスト8進出を果たしている。その青山学院大学も為し得なかった3連覇をした筑波大学への期待は自ずと高くなる。同じく2012年大会で女子も大阪人間科学大学が新潟アルビレックスBBラビッツを破り、翌年のシード枠を勝ち獲った。優勝した白鴎大学を始め、男子よりもWリーグチームを破る可能性がある。4年生にとってはこれが最後の戦いであり、卒業後に待つネクストレベルに向けた腕試し。引退時期が延びた年末年始、大学バスケを存分に楽しんでもらいたい。
期待の「HOPE STAR」が多いインカレ特集はもう少し続き、選手のインタビュー記事などをご紹介していくので、今後のバスケットボール・スピリッツもぜひお楽しみに!
第68回全日本大学バスケットボール選手権大会
第92回天皇杯・第83回皇后杯(オールジャパン2017)
文/写真・泉 誠一